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2014年12月

No.20 仙台『源氏』は、やっぱりクラッシックだった

先日、念願が叶って行ってきました。
仙台駅の西口を出てまっすぐに徒歩10分、中央通りを過ぎて最初の路地を左に曲がったあたりに文化横丁という通りがあります。言わずと知れた飲み屋街です。
仙台には定禅寺通りや晩翠通りを含む国分町のような繁華な飲食街がありますが、こちらの方は寂れた昭和の駅前酒場の集まりのような大衆的空気に満ちています。
そこの一角の路地の、またさらに細い路地を入ったところに、居酒屋『源氏』はありました。

5時開店ですが、あいにく30分ほど遅れての到着。
路地を突き当たると、白いライトの中に『源氏』の文字が浮かんでいました。
典型的な縄のれんをくぐって木の引き戸を開けると店内は満員です。でも、ちらっと私に目をくれた女将さんが「こちらへ」と手のひらで入り口近くの端っこの席を指してくれました。


空いているのは、この一席だけ。開店したばかりですから出て行く人がいるわけではないので、待つことにならずにラッキー。

それにしても年季の入った、丸太を縦に切ったようなカウンターと長椅子です。
明かりといえば壁と天井に掛かる行灯の電球色がボーッと照らしているだけで、どちらかといえば昔に返ったような古くさい薄暗い酒場のようです。

片隅には横浜『武蔵』にあるのと同じ曲がりくねった長い管のついた付いた燗付け器があります。天井は船底で低く、現代的といえるようなものは皆無です。
しかし、この空間にはどこか品がある。さりげなく飾られている花や絵がいい。思った通り何ともクラッシック。なかなかやりますねぇ、女将さんのセンスでしょうね。こういうところって落ち着きます。一言で言えば、「しぶい」。

コの字のカウンターの中には着物に割烹着の女将さんひとり、七十くらいでしょうか。

客席は二十くらいですが、これを一人で仕切っているのだから大変です。とにかく動作が止むことがないので、注文するタイミングがむずかしい。

しばらく眺めていると、どうやらほかの人も同じらしい。

ちょうど隣にお通しを運んできたときに、すかさずビールを注文できました。
半紙に墨で書かれた品書きをゆっくりと眺めます。どれもこれも、酒飲みが好きそうな酒肴ばかりです。魚介の刺身に干もの、エビ味噌、ホヤの酢の物、笹かま・・・・途端に、次はお酒だなと思いました。


店の奥にある茶室の躙り口のような障子の向こうが厨房のようですが、料理が出てきたときしか見えません。先にお通しの野菜の炊き合わせが出てきました。これが6種類も野菜が入っていて、お通しとはいえない量です。つい摘まんでしまいます。

と、ほどなく女将さんが注いだ生ビールが届きました。
うまい、泡の細かさが年季を示しています。女将さんは寡黙で、極めて上品です。
おっと、場内もそれに呼応するかのように静かです。三分の一くらいはひとりで来ている人と思われますが、連れのいる人たちも大きな声では話していません。
どうやら、ここはそういう酒場で、来る人たちが雰囲気を作り出しているようにも見えます。東京でいえば、『伊勢藤』や『シンスケ』のようなものでしょうか。

ここまで言えば、どんな店かはだいたい想像がついたことでしょう。

肴にハゼの刺身と漠来を頼みました。ビールの後には高清水の三年もの古酒を燗で2杯追加したのですが、そのたびにお通しがつくのです。2杯目はお新香、3杯目は湯豆腐でした。

ちなみに、お新香を褒めた客がいました。女将さんからは、すかさず「昭和25年から使っている糠床です」と答えが返ってきました。

今の私には3杯は飲み過ぎです。
1時間くらいでほどよい加減。何だかすごく満たされた気持ちで仙台を後にしました。牛タンなんか食べるよりずっとよかった。

  なかなかに 人とあらずは
     酒壺に なりにてしかも 酒に染みなむ
                               ――――大伴旅人

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