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2010年11月

No.5 ミシュランガイドに居酒屋が...

11月27日に発売された『ミシュランガイド東京・横浜・鎌倉 2011』に、ナッなんと、"居酒屋"が掲載されてしまいました。

『2010』では新たに焼き鳥屋が追加されましたが、『2011』ではおでん(一期・麻布十番)、とんかつ(かつぜん・銀座)、そして居酒屋が追加になったと聞きました。
『ミシュランガイド』もずいぶん大衆化したものだと思いつつ、「なんで居酒屋が?」と気になって、やはり買いました。

所詮、居酒屋ですから、快適性など求めても仕方がないので星がひとつなのは当たり前として、どこが取り上げられたかといいますと、シンスケ(湯島)、萬屋おかげさん(四谷)、味泉(月島)の3店です。
どれも、それなりの名店です。

特にシンスケは私の居酒屋としての6条件を満たす、文句なしの一押し店です(写真が掲載されなかったのが惜しいですが、これもシンスケらしい)。
萬屋おかげさんも、狭い地下の店は居酒屋としては風変わりですが、酒も肴も凝っていて、どれもが美味しい。酒飲みなら誰もが満足するはずです。
味泉は、魚介類が美味しい。ただ、料理の出るのがやや遅くて、店内が狭く席が窮屈なので、ゆっくり酒を味わいたい分には向かないかもしれません。

ミシュランガイドの居酒屋収載には出し抜かれましたが、なぜこの3店なのか、評価基準に合点がいきません。
基準については書かれていませんが、ミシュランのことですので、多分、料理の美味しさを評価の中心にしたのでしょう。
それも魚介を中心とした料理であって、素材そのものを生かした料理、煮込み、焼き豚、揚げ物といった料理は対象にされていないと推測します。
それに、残念ながら居酒屋としての重大要素である店の風情や居心地、大衆性といったことは考慮されていないようです。

店の紹介も、たいしたことは書かれていません。また、たいした調査もされていないと思います。
この3店に勝るとも劣らない名店は、ほかにもたくさんあります。
"私の居酒屋ミシュラン"を発表するには、まだ回らなければならない店が残っています。今しばらくお待ちください。

No.4 写真は掲載いたしません

未知の居酒屋を訪ねようとするときには、私もインターネットで検索して、それなりに事前情報を集めます。
営業時間、看板料理、酒の種類、地図、値段、席数、評判、時には込み具合などを、一応、調べます。そうするうちに探訪の意気込みも高まってきます。
 
これに加えて、店の感じをつかむためには、写真による情報収集は貴重です。たどり着いたサイト上に店の外観写真や店内写真、料理写真があると助かるのは事実です。
イメージが膨らんで、期待がますます高まることも多いからです。
 
ビルの地下にあるのならいざしらず、都内にも伊勢藤(神楽坂)、酒蔵秩父錦(銀座)、みますや(小川町)などのように、外観からして立派で、文化財的な一軒家の居酒屋もあります。地方に行けば、余計にそういう店を見かけます。そういう店は外観写真だけでも載せる価値がありそうです。

しかし、どうも自分が行ったときに、携帯でもカメラでも、撮る気にはなれません。料理の写真など、とてもではありませんが、勇気どころか、撮るのがイヤなのです。第一、焼き鳥や煮込みの写真など撮ったって、外観はどれもほぼ同じじゃないですか。
 
ですので、まことに勝手で恐縮ですが、私の居酒屋探訪記には、原則として写真はありません。
確かに、そういう写真が添えられていると、より臨場感が高まっておもしろく楽しく読めるという向きもおありでしょうが、その分、なんとか文章でカバーするようにがんばってみますので、あしからずお許しください。

No.3 「勝どき・かねます」訪問記

週に2、3回は居酒屋を巡ります。訪ねた居酒屋のすべてについて、何か書き留めておきたいけれど、なかなかそういうわけにはいきません。そこで、どうしても書きたいという店に出会ったときにだけ、[酔遊記]に載せることにします。
 


先日、勝どきにある『かねます』に行ってきました。ハイグレードな立ち飲み屋としてその名を知られた名店ですが、これまで訪問の機会に恵まれませんでした。
『かねます』は、開店が午後4時と早いのです。しかも、売り切れたらおしまいと聞いていましたので、なかなか足が向かなかったのです。

その日はたまたま、夕方、銀座のほうに出かけ、早く用事が済みました。かなり強い雨が降っていたので、こういう日ならすいているに違いないと考え、6時頃でしたがタクシーを飛ばして行きました。

清澄通りに面した小さなビルの1階。縄のれんを分けて引き戸を開けると、どうでしょう、入り口まで人が溢れています。ウヮーンウヮンと、会話の声がうねって耳に飛び込んできます。
右側に厨房があり、左側には通路を挟んで両側にカウンターがあります。

背伸びをして奥を覗いて見ても、カウンターには客がびっしりと張り付いています。細長い狭い空間に30人以上はいるでしょうか。

カウンターの中にはオーナー親子(事前情報で知っていましたが、顔がそっくり)が忙しく動き回っていて、今入ってきた客などには目もくれません。。
一瞬、気持ちがひるみ、あきらめて帰ろうかと思いました。しかし、店は奥に細長く、入口辺りはともかくとして、入っていけば何とかなるのではないかと気を取り直して、人を掻き分け進みます。

三分の二ほど行ったところで立ち止まると、騒々と人影のそよぐようにして、壁側のカウンターに私のスペースができました。誰にともなくお礼を言ってそこに立たせてもらいます。渋谷の富士屋本店でも、虎ノ門の竜馬でも、こんなには込んでいないでしょう。

更に奥には通路に立っている人もいます。場所が確保できてほっとし、周りの人たちの顔を眺め回す余裕が出ました。何だかみんなニコニコと幸せそうな顔をしています。女性も6人いるじゃありませんか。

今度は、早くこの人たちの仲間に入りたいと思い、店の人のほうを見るのですが、わざとこっちを見ないようにしているかのように目をくれません。黙々と料理を作り続けているのです。
「こっちから注文言わなきゃ、だめだよ。向こうから何にしましょうなんて絶対に言いこないから」と、傍の人が見かねたように教えてくれました。

品書きは黒板に書いてあるが、酒については書いたものが見当たりません。どうも一見さんは相手にしていないのではないかという懸念が頭をもたげてきます。
「酒のメニューはないんですかね」。
私は親切な隣人に聞いてみました。
「ここじゃぁ、ウイスキーハイボールがメインで、ほかはビールと日本酒だけ。日本酒は常温か燗を選べるけれど、"幻の瀧"一銘柄」と教えてくれます。
確かに、見える限りではみんなハイボール。『かねます』のハイボールはそんなにおいしいのか。でも、私はあまり好きではありません。

ここから声を張り上げて注文しても、喧騒にかき消されてしまいそうだなと逡巡しているときに、不意に、若くもない息子さんのほうが顔を上げて私を見たのです。この機会を逃してはならじと「生ビール」と声を上げました。
「生ビールは黒エビスだけ」と返事があります。
こんな状態では何でもありつければ御の字と「はい、けっこうです」。

黒板のメニューに目をやるが、読めません。周りの人が食べているものに目をやりながら、何であるかを確認します。
ウムッ、ともう一度黒板に目を凝らしました。ツマミは最低が800円からです。その上が1,200円、1,500円、1,800円、2,000円とあります。思わず「高い」と出そうな声を噛み殺しました。噂には聞いていましたが、それでもたかが立ち飲み屋ですからね。

しかし、それを承知で来ているのですから、食べたいものを食べようと覚悟を決めました。ほかの客は、こんなことを思わないのかなァ、でも、これだけ込んでいるというのは満足して帰れるということなんだろうなんて考えながら、「かねます名物・生うにの牛肉巻き」(以下、うに牛と称します)と、土瓶蒸しを注文。

もう片方の隣人である中年女性が「あんかけ生ゆばも、この店の絶品ですよ」と言ってくれましたが、まずはとりあえずこれを食べてみて。
ほかのメニューはというと、タコブツ、生麩の田楽、あん肝、しめ鯖・・・・・・など18品しかありません。どれも私の好物ばかりですが。

この混雑ぶりでは、注文してもなかなか来ないのだろうと半分あきらめて待っていると、若主人のほうが、すばやい動作で人垣を掻き分けビールを運んできて、無言で立ち去りました。
ここに来るまで、蒸し暑くて汗のかき通しだったので、期待よりも早くビールが届いたことが嬉しく、さっそく喉を潤します。うまい。

客の多くは連れ立ってきているようで、見た感じでは8割以上が店のルールをよく心得ている常連さんじゃないかと思われます。

そうこうしているうちに、また若主人がうに牛を持ってきました。しかし、あいかわらず何も言わずにそれを置くと、スーッと厨房に戻りました。実に早業です。

長い皿にうに牛が4貫のっているではありませんか。牛肉を軍艦状に巻いて、その中にギュウーッと生うにを詰め込んだという感じです。霜降りの牛肉とうにの色とが重なって鮮やかな美しさです。一目見たときから唾液が口内に溢れてきました。

チョッと山葵をつけて一つ目を一口でウグーッと。牛肉の脂分とうにの甘さが溶け合って、何とも言えない美味しさです。早く食べてしまってはもったいないので、二つ目以降は二口に分けて食べました。これは日本酒よりもビールに合います。

うに牛を堪能しているうちに、土瓶蒸も出てきました。
これだけ大勢の客がいるのに、よくまぁ、料理がすばやく出てくるものだと感心してしまいます。

見ていると、二人が言葉を交わすことなく猛烈に動き回っています。親爺さんのほうは八十近い年恰好ですが、見かけに似合わない迅速な動作です。若主人の料理を作る手際のよさ、無駄のない動線は、見惚れるばかりです。

二人の間には、はっきりとした仕事の分担があって、わかり合っているからこそ何も話さなくても流れるように呼吸が伝わるのでしょう。
それに、厨房が清潔そうに見えるのが、何よりその空気を証明しています。

やがて土瓶蒸が運ばれてきました。
土瓶蒸も具沢山で美味しい。松茸も十分入っている。

ここで燗酒を注文。
誰のところを見ても伝票というものはありません。

出てくるまでにチョッと時間がかかりましたが、忘れてはいませんでした。私が後ろを向いている間に、いつの間にか近づいて、サッと置いて戻っていきました。
大振りの湯飲み茶碗のような容器に、酒がなみなみと注がれています。これは1合以上あるかもしれません。

もう一品食べられそうだと思い、声を上げて白子の刺身を注文しました。
声が届くと、若主人がチラッと顔を上げ、目で合図を送ってきました。
この店では目線が大切にされているのがわかります。どうやら、忙しいだけで、不親切ということではなさそうです。

近くにいた四人連れが帰ります。席が空くと、当たり前のように、周りの誰もが少しずつ移動して自分のスペースを広げます。ようやく少しゆったりしたなと思ったのもつかの間、待ち合わせていた客の相方が入ってきて、また静かな波が起こって詰まりました。まさに縦横無碍です。

透き通るような白子が来て、これが酒に合う。
そこで、すでにほろ酔い加減だが酒をもう一杯追加。

あぁ、美味かった。
時計を見ると、もう7時半。
立ち飲みであることに違和感を覚えなかったから不思議です。

お勘定は7,400円。少々いつもより高かったけど、料理には文句なしに満足。
それにしても、伝票をつけている様子もないのによく数多くの注文を記憶し、間違わずに会計ができるものです。

欲を言えば、酒の種類や出し方にもこだわってほしいが、ここに来る人は酒なんてどうでもいいのかもしれません。みんなこの料理が目当てで集まってくるのでしょうから。ジョエル・ロブション、フェラン・アドリア(何者かは知らぬが)も訪れたことがあるそうです。

それから、料理は一人では量が多いかもしれませんので、来るときには連れがいるほうがいいかもしれません。そのほうが割安になります。

それにしても、とにかく寡黙な親子でした。

気が向くままに長々と書いてしまって、これをいったい誰が読むのだろうかと思いつつ終わります。

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