インターメディカルは人と知識の間をとりもつ出版社です。
看護師・保健師・助産師・管理栄養士の教材や模試では、適切な問題と親切な解説で受験生をサポートします。

  1. ホーム >
  2. 書籍TOP >
  3. 書籍編集部より >
  4. 進化形「安保流二元論」──『人が病気にな

進化形「安保流二元論」──『人が病気になるたった2つの理由』を読んで

「ワタシ、最近、また、大発見したンだ〜」という安保徹先生からミトコンドリアの話を聞いたのは、おととしの3月。早速、「安保免疫論の新テーマ〜ミトコンドリア・パワーの謎」でレポートした。先月、ご本人が自信作だという『人が病気になるたった2つの理由』(講談社)をお送りいただいた。読んでいるうちに、上方落語の桂枝雀(故人)を思い出した。

枝雀は、落語を漫画にしようとした噺家で、「笑いはキンチョーとカンワから生まれる」というのが持論だった。オーバーなアクションで「キンチョー」を平らに「カンワ」を下から上にすくい上げて言うので、大笑いしながら、「うまいことを言うな」と思ったものだった。

記念すべき処女作『未来免疫学』で、安保先生は、生きていく上でのリズムの重要性を強調した。人は、臨戦態勢の交感神経優位とリラックスの副交感神経優位の状態を揺れ動きながら、さまざまな状況に適応して自分を調整している、という理論に立ち、日々のできごとの観察から顆粒球とリンパ球をキーワードに、仮説に満ちた「大発見」を一冊に詰め込んだ。

あれから13年。安保流二元論は、やはり小さなことをおろそかにしない。湯たんぽを使った時の身体の変化から、人間が酸素を使わない解糖系と、酸素を必要とするミトコンドリア系のメカニズムで生かされていることに思い至る。ひらめきの背景には、「がん細胞が解糖系のエネルギーで分裂する」ことを 1930年代に発見したオットー・ワールブルクの研究がある。こんな埋もれた研究にもう一度光を当てるところも、安保先生らしい。そういえば昔も、『パラサイト・イブ』*の話をしていたっけ。

解糖系はさしずめ「キンチョー」で、ミトコンドリア系が「カンワ」の世界だ。それゆえ、解糖系の世界に偏ることが低酸素・低体温のがん体質を生むとして、温めリラックスするミトコンドリア系の「カンワ」の世界へ移ることががん治療に有効であると提案している。要は、バランスの回復が心身の状態に好影響を及ぼすという考え方である。

面白いのは、「がんは失敗作ではない」という見方である。現代医療は、病気を悪とみなし、薬や手術などの手を使って打倒しようとする。しかし、病気もまた人間の自然のひとつであるからには、起こるべくして起きてきた現象である。ならば、病気を、自分の生き方を見直すチャンスととらえて、「カンワ」の世界に生きられるように工夫することが治癒をもたらすと考えるのがシンプルな科学的態度というものである。

この観点から生き方を調整するさまざまなヒントが与えられる。バランス重視であるから、「キンチョー」の世界のよさもまたある。スポーツ選手の集中力と高いパフォーマンスなどは、解糖系の威力がなければ生み出せない。そのように効果的に利用すれば、ストレスもまた悪とばかりはいえない。年齢によって、解糖系、ミトコンドリア系のいずれかが強く働く時期があることもまたうなずける。安保流二元論、意外にも渋みを増しつつ、進化してきた模様。

余談だが、昔安保先生とお酒を飲んでいて、「カノジョ、この世で一番、自然体だ〜」と言われた。その直前に「イカは、この世で一番、自然体だ〜」と言っていたので、「アナタはイカです」と聞こえたが、イカも私も自然の力でイカされているのだから、ま、イッカ。(し)

*『パラサイト・イブ』......ミトコンドリア遺伝子を取り上げたホラー小説で、瀬名秀明のデビュー作。

« 応募券でプレゼント! | 保健師は人生の先生 »