私の出版に関する恩師である箕輪成男先生が、この6月に『近代「出版者」の誕生―西欧文明の知的装置―』を出版ニュース社から刊行されました。
実は、本書は"世界史のなかの出版者"という全5巻のシリーズの最終巻です。以下に、そのタイトルと刊行年と頁数を記します。
① パピルスが伝えた文明―ギリシア・ローマの本屋たち― 2002.5 (232頁)
② 紙と羊皮紙・写本の社会史 2004.9 (334頁)
③ 中世ヨーロッパの書物―修道院出版の九〇〇年― 2006.10 (246頁)
④ 近世ヨーロッパの書籍業―印刷以前・印刷以後― 2008.9 (350頁)
⑤ 近代「出版者」の誕生―西欧文明の知的装置― 2011.6 (354頁)
タイトルが示すとおり、文字の起こりから印刷が発達して出版が業態を成すまでの出版の社会史です。一言で言えば、膨大な古今東西の文献を紐解きながら想像力を働かせてイメージを纏め上げた書き物で、全5巻で1,500頁余に及ぶ、壮大な書史学になっています。
全巻を貫いているのは、「文明の装置としての出版が文明を推進してきた」という基本思想です。それを検証し裏付ける伏流として出版の経済活動が、どこでも平行して考察されています。
全5巻の出版の年月を見ると、目標に向かって確実に仕事を進められてきた姿が浮かんできます。全巻完結までに実に丸10年を要しています。箕輪先生につきましては、インターネットでお調べいただけばよいと思いますが、現在85歳というご高齢です。それなのに良くぞこれほどの大著を、10年をかけて完成させたものと、その頭脳と熱意と努力に心から感嘆します。
私が初めて先生の著書に接したのは、出版社に入りようやく仕事が身についたころでした。出版という産業、特に学術出版の社会的意味について興味を持ちました。その時に出会ったのが『情報としての出版』でした。それに続く『消費としての出版』、『歴史としての出版』でも勉強させていただきました。しかし、私にとって一番うれしかったのは、四十代のときに始めたフォーラム「科学情報の国際コミュニケーションを考える会」を後押ししていただき、そのうえ、先生が『国際コミュニケーションとしての出版」という本を出されたことでした。これは、私たちの活動を裏打ちしてくださるような内容で、有志の心を強くしたものでした。
私は箕輪先生の著書にたくさん触れてきましたが、中で最も心に深く残っているのは、訳本ながら『イギリス出版史』です。この本により著作者と出版社、著作権の起源について知ることができたからです。
このように、先生の著書は私の人生に絶えず刺激を与えてくれました。
この全5巻1,500頁に及ぶような、出版に限った歴史の本などは、きわめて高尚かつ高価なものゆえ、読者層はおのずと限られるかとも思われますが、この書籍を何年かかっても出版しようと決断された出版ニュース社の清田義昭氏にも敬意を表さなければなりません。
誰かが歴史をレビューして書き留め、そして残すということが、電子の世界における真実性に信頼が置けない現代において、大いに意味のあることであり、必要なことであると思います。その意味で、この"世界史のなかの出版者"シリーズは後世に残る出版物であると確信しています。