No.6 今年は落語にはまって

昨夜は、今もっともチケットを手に入れにくいといわれる落語家の一人、立川談春の独演会に行ってきました。『文七元結』は75分の熱演でしたが、後半の仕上がりがもうひとつだった気がします。

落語を誘ってくれる友人がいて、ホールばかりですが、今年9回も聴きに行ってしまいました。その友人などは、週に2回行くことはざらにあるようです。私も今やすっかりはまってしまって、古典芸能は文楽から落語に乗り換えてしまった形です。

落語は昔から好きで、落語に親しみ始めたのは16歳くらいの時からです。高校2年のときに肺結核になり、世間と隔絶された森の中のサナトリウムで2年間の療養を余儀なくされました。希望に満ちた前途を突然立たれてしまった少年の私は、失望と落胆からなかなか立ち直れませんでした。

結核としては重症であったので、ただ、ただ、毎日ベッドで寝ているだけの生活です。最初のうちは本など読む気力もありませんでした。テレビも、病室にはない時代ですから、楽しみといえば枕元に備えられているラジオを聴くことだけでした。ニュースも、音楽も、ドラマも、スポーツも、すべてがラジオを通して伝えられました。東京オリンピックの頃で、ビートルズを夢中になって聴き、長島と王の活躍に歓喜した、そんな時代でした。

逼塞した暗い日常で、落語を聴くことがラジオによる娯楽のひとつになりました。両親が来所したときに、私が落語を良く聞いているという話をすると、落語全集を買ってくれ、私はそれで聴いたばかりの落語をなぞるように読んだのを思い出します。

まくらが長くなりましたが、そんなわけで落語にはずいぶん若い頃から馴染んではいました。しかし、生の落語というのは、この歳までにせいぜい2回くらいしか聞いたことがありませんでした。いつか、時間に余裕ができたら、落語を存分に愉しんでみたいと思いつつ過ぎてしまっていたのですが、ふと、友人が落語好きで、猛烈な勢いで毎週通っているのを知り、私の中に眠っていた落語への郷愁が呼び起こされました。今がいい機会だと決心し、落語にも手を伸ばすことにしました。

その友人にチケットを買ってもらい、落語デビューは今年2月の紀伊国屋サザンホールです。最初から柳家三三、林家たい平、柳家花緑、柳家喬太郎と芸達者ばかりで何ともラッキーでした。

それからというもの、ほぼ毎月出かけています。1年で40人ほどの落語家の噺を聴くことができました。そんな中で、今年の締めくくりに、私が聴いた今年のベスト5を挙げてみます。

柳家三三     おしくら(2月2日、紀伊国屋サザンホール)
柳家喬太郎    死神(3月15日、東京芸術劇場中ホール)
桂 染丸     浮かれの屑より(6月22日、国立演芸場)
古今亭菊之丞  替わり目(12月15日、浜離宮朝日ホール)
滝川鯉昇     歳そば(12月15日、浜離宮朝日ホール)

個人的には、桂文珍が好きです。古典でも創作でも、最初から最後まで笑わせます。今年聴いた中では柳家小三治、立川談春、柳家花緑も上手いと思いました。逆にがっかりしたのは、林家正蔵、桂三枝、三遊亭円楽、三遊亭小朝です。テレビに出る回数と芸とは反比例するのでしょうか。

落語の深さを少し知った一年でした。来年も新しい落語家に出会ってみたいですね。