二宮 文乃

水……この大切なもの

    「箱根路を我が越えくれば伊豆の海や
             沖の小島に波の寄る見ゆ」

 伊豆地区は源頼期、悲劇の死を遂げた頼義、そして大樹のもとで斬られた実朝と、源家とは多くの縁がある。
 鎌倉との往復には十国峠を越えたが、その峠から熱海湾を見おろして詠んだ歌で多くの人に知られている。太古からあるこの小島、初島(はつしま)は熱海湾の臍のような存在で、遠見にも心をなごませてくれる風景である。この島で、千メートル深くまで掘搾して海洋深層水を汲みあげ、タラソテラピーを始めたのである。
 深層水とは最近諸所で脚光を浴び話題になっているが、海洋学でいうのは太平洋岸では千米以深の水をいう由である。通常は二百米から三百米でも深層水と呼んでいる。

 海洋深層水には、次のような特徴がある。
1)硝酸塩、燐酸塩、圭酸塩が表層水の数倍から数百倍ある。光合成を伴う植物プランクトンがないため無機栄養塩類が多くなり、栄養性が高い。これを利用して藻類を養殖する。
2)細菌類が表層水の1/10から1/100で病原微生物が少ない。環境汚染物質がきわめて少ない。陸から流れ出てくる大腸菌や細菌の汚染が殆どない。この清浄性を利用して再生循環型のクリーンな大型資源が望める。温度を上げてタラソテラピーに応用できる。
3)年間を通じて10℃以下の低温で安定している。低温性を利用して施設冷房や漁業などに利用されている。

 人間の身体は隅々まで潤おされ、細胞内外の水はK、Na、Ca、Mgの関係のよい、ミネラルバランスのよい水で充されることが生命の根源であるといえる。すなわち潤おすのにも良い水が必要である。
 アトピー性皮膚炎の患者さんはプールに入ると憎悪することが多い。皮膚の表面から接触する水中塩素も悪化因子である。
 アトピーは表皮にブ菌他の菌がみられ、深層水の清浄性を利用した入浴法は表皮を清浄化し、皮膚炎を軽快させることができる。当院ではアトピー性皮膚炎の方達に3回以上のタラソテラピーの入浴をすすめているが、入浴後数日迄皮膚は滑らかで痒みも少ないとの報告である。内因としての免疫異常やアレルギー体質、虚物などに対しては漢方を内服し、外からは海洋深層水の入浴が外用剤よりは有効であると考えている。

 水は自分に接するすべてのものに潤おいを与え、励まし、育てる。私達医療を行う者はいつも、それぞれの場において水の如くに周りを潤おし患者さんを潤おして行きたいものである。お互いの関係を乾いたものにするも、潤おいのあるものにするも、それぞれの心の在り方が大切だと考える。