医者の鮮度

 私は精神科の医者です。家族は私と金魚とグッピーです。花も少し育てています。
 音楽も好きです。小さな頃はピアノを習っていました。
 私が医学生だった頃、山口百恵、森昌子、桜田淳子の3人が「花の中三トリオ」と呼ばれ、山口百恵は「あなたが望むなら何をされてもいいわノノ」と歌っていました。
 この時代も、かわいくって、むじゃきで罪のない若い女の子がアイドルでした。この流れは、おニャン子、スピード、モーニング娘。と続いていると思います。若い、言い換えれば未熟さが持てはやされる土壌がこの国にはあるのでしょう。
 私は自分の生き方は自分で決めたいと思い、またそのように教育もされました。人の意見、考えを聞くゆとりが欲しいと思っていました。それから納得して将来を選びたかったのです。特に経済的な問題で生き方を変えたくはないと考えていました。これは医者になった理由の一つになっています。
 けれど、その当時、自立した女は縁が遠のくとか、結婚相手を探しに医学部に来たとか男子学生には言われました。1970年代の話です。
 医者になった頃、平和な日本はバブル経済の中にありました。そしてすでに第二次世界大戦は、活字のうえでのできごとになりかけていました。
 ちょうどそんな時、中学1年の横田めぐみさんは、世界一安全な国から連れ去られたのです。驚愕と憤りを感じます。彼女の若さが、この感情に拍車をかけます。
 若さは未熟であり未完であります。未知の可能性を他者に決められ、利用されるという事態に心を強く掻き立てられます。
 若い時の経験は、人生を左右するほどの意味があります。しかし若さの可能性も、平和の中にあってはじめて実現できるのです。個人の思考は、その属する社会とけっして無関係ではありません。
 今の私は、若さからは遠く、しかし骨董品の値打ちがでるところまではいかず、石原都知事が外務大臣時代の田中真紀子さんを評した腹立たしいコメントによると、暦年齢では更年期です。
 だけど更年期のひとことで片付けられては納得できません。
 仕事を続けたいと思っている人はみんな、いろんな努力をしていると思います。これでよかったのかと、何度も考えることでしょう。男も女も若きも年寄りも。特に年取った女は。
 私は、今までの経験の裏打ちを力の源とし、感性鋭く医者としての鮮度を維持していきたい。その努力を続けたいと思っています。