大学病院で働き続けるということ


大学病院で働き続けるということ

鈴木眞理

 私は、卒業後24年間、大学病院で仕事をしている。最近、若い女医さんから、「大学に残ったほうがいいでしょうか?」と尋ねられ、同期の開業医から、「よく大学に残ってきたね」とねぎらわれ、大学で仕事をする意味を改めて考えた。以前、先輩の女医さんから、「一般病院の勤務医になると、昼間ちょっと子供の授業参観にでかけられないから、大学のほうが自由がきく」といわれ、「そんないいかげんな理由はないでしょう」と思った記憶がある。
 大学の使命は、教育、診療、研究である。学生実習や指導、外来や病棟業務のほかに、大学の医局にいると早朝勉強会や研究会、医局の運営上の役割も分担する。その上で、自分の専門領域の研究をして、学会で発表し、論文や本を執筆する業績、すなわち「生産性」が求められる。臨床医でかつ研究者である。家庭を持って、これらをこなすことはなかなか難しい。
 ところで、アメリカの内分泌学会は、歴代の会長だけでなく学会の要職に女性が多く活躍している。さらにWomen in Endocrinologyという女性研究者だけの組織がある。
 10年前の定例のバンケットでの議題は今も印象深く思い出される。テーマは「女性研究者の生産性」だった。「出産することも生産性だけれど」というジョークで始まった会で、各テーブルでは、出産や子育て、夫の仕事や勤務地で自分の仕事が制限される不満が出始めた。たまたま隣に座った初対面のベティー、大学教授の夫の教室で研究している医者で、空港まで車で送ってくれた夫は、妻の学会中ずっと子供の面倒をみてくれる幸せそうな彼女でさえ、仕事と家庭の両立の難しさを話し始めていた。
 ところで、その夜の発言者の答えは、「女性研究者の生産性を高めるのは、良い夫でも、良い家庭の援助でもない、あなたを育てようとしてくれる上司だ」であった。
 私の卒業当時、母校の、特に外科系の医局は「女性禁止」の暗黙の了解があった。「女医は子供ができたら辞めるから」と公然と言われた。今や、医学部学生の30~40%が女子学生に占められるようになり、上司は性別にこだわらず育てざるを得なくなっていると思う。私は幸運なことに女医を育てるという気概のある教授のもとで、大学ならではの他科のエキスパートと連携して思う存分仕事ができた。
 大学は、漫然と過ごすところではなく、目的を決め、それにメリットがあるなら利用して勉強する場所である。そのメリットのためなら雑用をこなし、医局の不愉快な出来事もうけ流す。本人の努力だけでなく家庭環境も大切だけれど、上司選びはもっと重要である。私の今後の課題は「良い上司になりたい」だ。