心とからだ

いまどきの「コミュニケーション力」

圏外とKYといじめ----教育カウンセリング学会で土井隆義氏講演


 2010516日(日)、東京都文京区、跡見学園女子大学において、日本教育カウンセリング学会の公開講座シンポジウムが開催された。

 「友だち地獄」の演題で、同名の著書のある土井隆義氏の講演に続き、「場の空気を読めない子どもたちの行方」と題したシンポジウムとグループワークを、同学会理事長の國分康孝氏が総括した。


●「友だち地獄」(土井隆義氏講演再録)


ケータイ世代の不安

 最近、若い人は「圏外」という言葉にパニックになるほどの不安を抱いているようです。携帯電話でいえば電波が届かない圏域ということですが、不安の内容は、ここぞという時に自分から連絡できないことと、思うように自分が受信できないことです。そのため、入浴中などに特に不安を感じます。

 彼らには、「即レス」といって、受信したらすぐ返信するというマナーがあるために、即レスできない状態にストレスを感じます。その一方で、「先生の電話なんて圏外よ」というふうに、自分に都合の悪い人や情報を故意にシャットアウトする。うっとうしい教師は圏外にしてしまえというわけです。

 「圏外」に覚える不安は、この裏返しとして、自分自身が世界から消え去ったかのような感覚をもつがゆえに生じます。


KYと「そんなの関係ねえ」

 KYとは「空気が読めないこと」。「そんなの関係ねえ」は、切り離すという感覚。同じ頃に流行ったこれらのワードは、実は同じ現象の裏と表です。

 彼らの人間関係においては、仲間の内側で過剰に空気を読み合います。その分、外部に対して気を回すエネルギーが残っていません。内側の世界は生きやすいのかというと、実は息づまる関係で、この典型がいじめです。

 従来、いじめとは、異質なものを排除するという行為でしたが、彼らにとっては異質な人間はすでに圏外に切り離した「関係ねえ」存在です。このため、同質化した人間の中でわずかなちがいをいじり合っていじめが起こります。いじめを「いじり」と言い表すゆえんです。

 いじめの実態は、文科省の'80年代の定義から大きく変化してしまったため、2006年、いじめの定義が変更されました。


 従来の定義......①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているもの


 新たな定義......当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的・物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの


 昔は、いじめっ子、いじめられっ子という人間関係のタテの構図があり、いじめは、特定の生徒のパーソナリティに関係づけて固定的に行われていました。これに対し今のいじめは、加害者と被害者を分けるものは個人の性格ではありません。いじめの構図も継続的なものではなく、ターゲットは、時と場合によって場の空気次第で決まります。

 このためいじめは表面化せず、深刻さも「遊び」というものでラッピングされて、「いじられておいしい」などといいます。摩擦を避け、対立点は表面化しないよう圏外へ追いやられています。関係そのものが傷つくことは、自分が傷つくことに直結します。


「関係」----普遍的なものさしのない時代のナビ

 かつて私たちは、自身の抽象的な信念や信条、具体的な知識や技能、趣味などで、自尊感情を支えようとしてきました。周囲から評価されるかされないか、正しいか正しくないか、望ましいか望ましくないか、共通のものさしがはっきりしていました。

 '80年代までは、いじめも、学校という画一化された場で、「異質の排除」として行われてきました。その場の空気で評価が変わることはなく、いじめの標的も固定化し、継続的なものでした。

 今日では、自分を支えるものは人間関係です。ひとりで立っていることがつらく、むずかしい時代です。「個性の重視」が'90年代半ばに叫ばれ始めて以後、その傾向が顕著です。学校文化で表面上は多様性を称揚しても、あらゆる可能性が受け入れられるわけではない。まわりの期待に沿うものだけが受け入れられる。普遍的で画一的なものさしを押しつけられることが減って、まわりの人から個別的に具体的に評価される。そうするとウケを狙えるかどうかが自分の評価となり、ひとりで立っていられなくなります。

 社会に明確な評価の基準があった時代は、自分の内面にそれを取り入れてよりどころとし、自己肯定感をもつことができた。それがあれば周囲の評価は気にせず、信念に従って生きられる。その信念も勝手な思いこみではなく、きっといつかわかってくれるという客観性に支えられて、「これが正しいはずなんだ」という自分を超えた普遍的なところに、羅針盤としてありました。

 今日、そのような明確なものさしはありません。昔より多様な生き方が認められた社会で、あたかも自分で人生を決められるかのような錯覚がありますが、判断基準がないから、自分の方向がこれでいいのか、対人レーダーで相手の反応をみて自分のよりどころとする。GPSナビのようなものです。

 ケータイは人間関係のナビだといえます。誰かから自己承認を得ることが支えになる。しかし相手の評価というものは、前もって予想しづらく、簡単に変化します。'90年代に流行った浜崎あゆみの歌に、「僕が絶望感じた場所に君はきれいな花見つけたりする」という歌詞がありますが、同じ状況を生きていても見え方も反応も千差万別です。安全牌を求めることが同質なものを求めさせるのです。


「関係」をいじり合って起こるいじめ

 相手から否定的な評価を受けると傷つく。だから深入りしない。価値観のちがいも起こらない。かつての「腹を割って話す」という文化は通用しない。こっちでもあっちでも腹を割ってたら破綻する。むしろ腹を割って話さないことがマナーとなる。だからキャラ化する。キャラがたつようにわかりやすくして見通しをよくしている。

 仲間内での対策として、差別がなく、上から目線を極端に嫌うフラットな関係を好みます。親子関係もしかり。一方で、格のちがい、身分のちがいなど、グループ間のちがいは過剰に意識します。スクールカーストという学校のヒエラルキーでも、上や下は格がちがえば圏外として排除します。

 そのような対策のバランスが崩れたとき、いじめが起こります。人間関係がなければいじめの対象にはなりません。外部に共通の敵がなく、共通の価値観もない。それでも関係は維持する必要がある。関係が、関係のための関係として自己目的化しています。だから関係自体をいじり合って活性化し、そこにいじめが起こります。

 ここでいう活性化は、ポジティブな意味ではなく、「場を消費する」「やりすごす」というほどの意味です。共有する基盤があれば会話をしなくてもいいけれど、基盤もなくつながるにはあえて何かをしなければならない。

 たとえば、中学生のオヤジ狩りなどは、オヤジ狩りが目的なのではなく、そのような非行をネタにしてつながり、人間関係を維持しているのです。もしも共有するものがあれば離れていてもいいし、自分の羅針盤が自分の内部にあれば、つきあいも対決もできる。ですが、常時接続するためには、つながる時のネタを必要とします。


「関係」の中での生きづらさ

 かつて大人の価値基準を押しつけられる抑圧的な状況で、子どもは思うようには生きられなかった。そんな不自由さが生きづらさだった頃、尾崎豊の「15の夜」のように、あえて学校で煙草を吸うことは抵抗の証でした。

 今の子どもは「家で吸えばいいじゃん」と、学校で吸う意味を見出せません。このため思春期は反抗期とならず、親との関係は良好です。対立を避けて波風を立てない。一方で本音の話もできない。親そのものに子どもから認められたいという承認欲求があります。

 今、生きづらさの質が変わってきたのではないでしょうか。建前上の多様さと意識の上での自由さはあります。しかし現実には開かれた自由ではありません。現代の子どもの生きづらさは、同質化した人間関係の中での生きづらさになっているように思います。

 学業やスポーツができる子が上ではなく、今日的な意味での「コミュニケーション能力」----それは「空気が読める能力」や「関係調整能力」を指します----のある子が上です。ここでは優等生がカーストの下で、ギャル系の子が上です。

 空気の読めないKYの子はどうしたらいいのか。ひとつの方策は、人間関係の軸足を増やすことです。多元化して別の世界をもつ。もうひとつ、"Look at me." という際限のない欲求からベクトルを変換して、「見てもらって安心する私」から、「私が誰かを見る」という立場に移行することも有効でしょう。

 捨て猫を拾ってセックス依存症から立ち直ったある女性がいました。それは、猫エイズに罹っていて世話をしなければなりませんでした。自分が誰かに見てもらっていないと安心できなかった彼女は、猫を見てあげているうちに解放されていきました。自分が誰かの役に立つという経験は、それほど貴重なものなのです。


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 シンポジウムでは、まず片野智治座長が、土井氏の著書『友だち地獄』を「人としての根源的な存在を脅かすむずかしい問題」と評したあと、「人はふれあいと自他の発見を通して成長する。誰しも他者の人権を侵さない限り、『ありたいようにある勇気(courage to be)』をもつ自由がある」と話した。

 これに続き、「場の空気を読めない子どもたち」と題したシンポジウムで、教育現場から4人の話者が、現場でのいじめの発覚の困難、子どもたちの表面的な仲の良さ、小・中学校など過去のいじめを高校・大学までひきずるケースの多さ、孤立への恐怖、子どもたちの人間関係能力の希薄さなどについてそれぞれ語る中で、アドラー*1が提唱するワンネス(One-ness、人の内面世界を共有しようとする姿勢)、ウィネス(We-ness、人の役に立つことをしようとする姿勢)、アイネス(I-ness、自分は自分であると自己開示する姿勢)のうち、ウィネスの重要性が指摘された。

 いじめ被害に遭った子の保護者については、子どもの問題と親の問題を分離し、援助者が「子ども問題」を子どもに預けたまま、子どもによる問題解決を支援する学習プログラム(STEP)なども紹介された。すべての議論をもとにして、会場内でグループに分かれて意見を述べ合った。


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國分康孝氏によるエンディング

 今日は、社会学の観点からの問題提起、アドラーの話、STEPの話などが出ました。僕は実存主義的にコメントをしたいと思います。

 オヤジ狩りは、オヤジ狩りという行動をともにすることによって仲間すなわちsense of belonging がkeepされる。人を殺してまで友だちとつながることは、person addictという。どうやら人間関係なしには生きられない時代が来とるらしい。

 また、孤独を悪と思うbeliefの子の話も出た。Courage to be とは、人間関係を拒否しても自分のありたいようにある自由です。人間関係がうまくいけばそれに越したことはないが、人間関係以上に大事なことがあると、ムスターカス*2は言っている。日干しになっても四面楚歌になっても自分自身でいるということの大事さです。

 KYの逆で子どもたちが空気を読みすぎて疲れるという話も出ましたが、この場合の気の使い方は、nervousnessと言って、自己の防衛機制に基づいている。カウンセラーに必須の資質である相手の期待に沿った行動をするときの気の使い方であるcare または sensitive ではありません。俗に言う空気が読めない人は、egocentricな人間ということになる。

 構成的グループエンカウンター(SEG)は、対人関係を訓練する方法ですが、個を強調します。個をちゃんと意識した人が個をちゃんと意識した人とリレーションする。ゲシュタルト療法の始祖パールズの弟子のタブスは、" You are you,  I am I."と言っている。個を自覚し、他との関係も自覚するというリレーションが大切です。


*1 オーストリアの精神科医、心理学者。

*2 実存主義的心理学者。


摂食障害の回復に必要な気づき――摂食障害を科学する

鈴木眞理(政策研究大学院大学)

2008年9月20日、タンポポの集い(東京ウィメンズプラザホール)の中の講演「摂食障害の回復に必要な気づき」より抜粋再録した。

摂食障害はストレス病
 本日は、こんな素敵な会場でお話させていただき、有難うございます。プロの学会屋さんでも運営は大変です。タンポポの会のみなさんのご努力に敬服いたします。
 私が摂食障害の治療に携わるようになって30年です。研修医の時にはじめて拒食症の患者さんをもった時、何をしても食べてくれず、なぜこんなに医者が無力でこんなにわからない病気なのだろうと思いました。私は天邪鬼なのか、わからないといわれると「なぜ?」、むずかしいといわれると「なぜ?」と考えるほうで、この病気とのおつきあいが始まりました。
 私は内科医で、研究者です。ですから今日は、この病気を知ると戦い方がわかるというお話をします。
 本当は摂食障害は、戦うというより一緒に過ごして、徐々にさよならしていく病気です。発病理由がなぜなのか、本人もわかりません。
 科学的な側面から言うと、拒食症は心身症といって心の動きが身にあらわれる病気です。
 無理の積み重ねや解決困難な問題、嫌な現実は、誰にとってもストレスですが、通常私たちは、「こんな嫌なことがあった」「上司にこんなことを言われた」と認知と感情で受け止めて適切に処理し、家へ帰れば普通にごはんを食べます。犬を蹴っ飛ばしたり、明日はこう言ってやろうなんて思ってやり過ごします。ですが、少しこぼれてしまうことがあります。すると、血圧が上がる、喘息やアトピーになる、などの症状が出ます。
 摂食障害になる人は、この感情の部分をショートカットして、すぐ症状が出ます。ダイエットしたくなる、食欲がなくなる。つまり、からだが「No!」と言っているのです。症状は無意識の本音です。診察室へ入ってくるなり、「食べられないんです」「過食しっぱなしです」などと言う患者さんには、「それは結果でしょう。何か原因になる出来事はありませんでしたか?」と質問します。だって、私たちは、「試験と体育祭でくったくた。食欲も落ちて調子悪いです。」ときちんと言えるのですから。

ストレスとコーピングスキル
 人生には、さまざまなライフイベントがあり、その時々にストレスがあります。1967年につくられた社会適応スケールでは、ストレスが点数化されています。最大のストレスは配偶者の死、次いで離婚、別居などがあり、1年の合計が、165~199点で37%、200~299点で51%、300点以上で79%の方がストレス病を発症するといわれています。
 この点数を「いいこと」で見てみましょうか。結婚が50、妊娠40、子どもが生まれて新しい家族が増えて39、仕事への再適応39、経済状況の心配37、夫との喧嘩35――全部ごく普通のことなのに、これだけで軽く200を超えます。私も、あともうひとつ来たら倒れそう、と思う時は、早く寝るようにするなど、自分で調整してストレスをいなしています。
 摂食障害になる人は、まずストレスの数が多い。さらにストレスが、その人のコーピングスキルを上回る。コーピングスキルというのは大切なキーワードで、ストレスがあった時にそれを「いなす」、あるいは「対処する力」のことです。
 私やタンポポ*の主宰の麻生洋子先生のように、年齢を重ねると、物事に優先順位をつけて、何かをやらなかったりしますが、若くてまじめな方は、私たちがスルーするようなことも、きっちりとやってしまい、キャパを超えてしまいます。病気の原因探しをするのは不毛なことで、複数の原因が重なって、コップから水があふれるように発病してしまうのだと考えられます。
 ストレスとキャパのバランス以外の因子もあります。ストレスで食の異常をきたしやすい遺伝子や、いじめられてもいじめない性格傾向、「0か100」の極端な認知のしかた、過保護・過干渉でコーピングスキルが育ちにくい今の日本の文化もあるでしょう。
 拒食症になりやすい人は、「おはよう」と言って相手が無視すると、ふつうなら「よく見えてなかったのね」ですませるところを、「あれ、私、何かしたのかな?」と、自分のせいにします。
 コーピングスキルとストレスは、病気の発症と回復の両方に影響しています。

    *NPOフリースペースタンポポは、心に問題を抱える女性のための居場所で、カウンセラーの麻生洋子氏が主催している。

やせに守られている
 摂食障害の人で、「今日は、食べて吐くぞ!」と思っている人はいません。食欲は意志で起こせるものではないからです。視床下部から出ているさまざまなホルモンや、脂肪細胞から出るレプチンなどのホルモンが増えたり減ったりすることで、食欲は調節されています。
 CRFというストレスホルモンを調べるネズミの実験で、ストレスとホルモンの関係が証明されています。拒食症の患者もCRFが高くなっており、ストレスがホルモンを動かしているので、決してわざとではありません。
 拒食症の人たちの方程式は、ただひとつ。「困ると、やせたくなる」です。でも、何に困っているか、気づいていません。やせることにはメリットがあります。嫌なことに感受性が鈍くなって、いつもなら嫌なことができるようになる。勉強を頑張れるのもそのためです。
 患者さんはみんな、「やせてる時は守られていた」、「体重が増えると、みえてきてつらい」と言います。「やせていて友人がいないのは許せるが、健康体重で友人に好かれないなら許せない」とはっきり理不尽な思い込みを述べる患者さんもいます。やせていれば、学校へ行かなくてもOK。失敗してもOK。自分への言い訳があります。 やせはまた、「食べてあげない」などと、脅迫にも使えます。
 拒食症になるとおかしな行動が出ることは、アメリカのミネソタスタディ*など、有名な実験でも証明されていますが、すべて飢餓が原因です。

    *ミネソタスタディ 第2次世界大戦中のアメリカで行われた25週間の飢餓実験で、食への異常なこだわりや、過食などの、拒食症に酷似した現象がみられた。

思春期と月経と骨
 脳の視床下部というところには、下垂体という1cmほどのさくらんぼのような器官があり、さまざまな大切なホルモンを出しています。この下垂体が一番大きいのが思春期の女の子です。思春期は身長のスパートがある成長期で、半年遅れて体重のスパートが出ます。骨のカルシウムもピークです。この時期に体脂肪も増え、20%以上で月経が来て22%で排卵があります。生理が止まるのは標準体重の77.7%を切った時ですが、標準体重の90%まで戻さなければ再来しません。
 IGF-I(insulin-like growth factor-I)という骨をつくるホルモンは、体重と正相関しています。また、IFGと女性ホルモンの両方が低いと、骨粗鬆症になります。拒食症の人の半分は、骨密度が低下しており、下がりすぎると戻りにくくなります。

過食と自己嘔吐
 過食傾向のある患者さんに、「いくらぐらい使います?」と尋ねて「一回一万円ぐらい」と聞くと、そんなに悲しみは深いのかと思います。ただ、心が満たされたいのに、食物で心を満たそうと違ったことをしているので、いつまでたっても終わらないのです。
 やせてる段階では、飢餓になるので食べたいホルモン全開です。トイレが我慢できないのと同じです。飢餓の反動は過食で、「食べてる時、どうですか?」と聞くと、「食べてると快感」とみんな言います。でも、食べた後、やせていなきゃいけないことを思い出して、下剤や嘔吐で食べたものを出します。吐いてる時も爽快感があり、頭も楽です。ただ、悪循環で慢性化します。
 飢餓とストレスが二本立てなのはしかたないにせよ、嘔吐では大量の水分が失われます。私たちの体内で分泌される消化液の量は、唾液が1日1リットル、胃液が2リットル、膵液が700cc、胆汁500ccです。これらの水がリサイクルされて回っているのですが、吐くとこの水が失われ脱水になるとともに、体内のナトリウムとカリウムが不足すると、イレウス(腸閉塞)や不整脈、腎不全などの原因となります。吐いたあとは必ずポカリスエットや大塚OS-1という飲料水などを利用して、脱水と低カリウム血症を自分で予防するくらいの対処は必須です。
 下剤の錠数と効果は比例するという思いこみもまちがいで、かえって効果が落ちる上に、腸の内壁を内視鏡でのぞくと、ただれて血だらけになっています。下痢でまた水分とカリウムが失われます。下剤乱用は、ぽん、とやめても意外と平気で、ちゃんとお通じがあります。
 拒食でハイになるのと逆バージョンで、過食はうつとセットです。無気力でドタキャンしたりと大変つらい時期ですが、私は過食期を、お金と時間を使わないで体重を増やすことができるチャンスと捉えて、上手に活用するとよいと思います。

いろんな治り方でいい 
 本人もご家族も、摂食障害が治るとは、体重も月経も回復して、社会でフルタイムできちんと働くこと、と思い込んでいませんか? たとえば、脳血管障害(脳溢血)では、リハビリで失われた機能をできる限り回復させて、社会復帰を図ります。発病前と同じレベルまで回復できることが一番ですが、少々、後遺症が残っても社会生活に支障がなければよいと思います。特に慢性の摂食障害は、そのような視点も必要だと私は考えています。慢性の3人の患者さんの治り方を紹介します。
 A子さん、14歳で発病、16歳、進学校の勉強の過重で悪化して入院、高校退学してサポート校と予備校から大学進学、18歳で体重と月経は回復しました。この段階で、一般には治癒です。でも、本当の治療はこれからです。適切な距離を持った人間関係が苦手です。嫌いな友人の誘いを断れず、いつも周囲に気を遣い、無理をしては、自宅で過食や家庭内暴力に及びます。カウンセリングを続けながら、「誰からも好かれなければならない」という人間関係における間違った思い込みを修正したり、上手な断り方の練習をしました。
 22歳、就職活動で「社会性がない」ことを指摘され、過食は悪化しました。常勤社員として就職することに不安を感じ、自ら派遣社員を選び、自分に合った柔軟性のある職場で働いています。この時期に、過食などの問題行動は修まりました。これが治癒と考えています。本人の「まあいいか」と思える心身の状態に至るのに10年かかっています。ただし、なかなか治らない10年ではなく、成長の10年です。
 B美さん、16歳のとき家庭内葛藤のしわ寄せがあるときに発病しました。18歳、大学進学とともに一人暮らし、アルバイトやサークル活動で活躍し、やせが悪化して入院しました。20歳、体重と月経は回復しましたが、ストレスが多いと過食嘔吐しました。就職しましたが上司と合わず、転職して落ち着いています。現在、過食嘔吐は週1~2回、1回15分程度です。誰にもわからず済ませます。どうしてもストレスがたまると、それで解消しています、私はこれも治り方の一つと思っています。週に1~2回、新橋あたりで飲酒して酩酊しているお父さんよりましです。過食嘔吐は絶対しない、なんて固く思わず、しなやかな悪友との付き合い方もあります。
 C江さん、中学校からいじめがきっかけで不登校です。18歳で発病し、21歳で体重と月経が回復しました。ただ、対人恐怖のため他人に会うことには抵抗を感じていますが、家事手伝いをしています。外出できないことが本人と家族の悩みですが、摂食障害は回復しているといえます。個々の患者さんの環境と実力にあった治り方があることを認識することが必要です。
 現実的には、治療のためにはまず体重を戻す必要があります。その次が本題である思春期の問題に取り組みます。たとえば、笑ってNoが言えるようにコーピングスキルを鍛えます。
 回復には、治したい気持ちになること、やせに逃げ込む当面の問題を改善すること、安心できる環境を整えることが大切で、少しずつ小さな目標を積み上げていきます。そして大切なのが、がんばらないこと。がんばりすぎて起きてしまった病気なのですから。
 また、縦軸に体重、横軸をコーピングスキルにしてグラフをつくり、自分がどの辺にいるのか、立ち位置をちゃんと認識してもらいます。
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 その位置によって回復の課題も変わります。厚労省では、何キロあれば何ができるといった体重のめやすを定めています。

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 回復の途上では嫌なことも起きますが、人それぞれ性格や環境に合わせて、上司に怒られたらどうするかなど、劇までやって練習して、コーピングスキルを養っていくこと、タフにしなやかに生きていく知恵をつけることが、この病気の到達地点だと思います。

安保免疫論の新テーマ~ミトコンドリア・パワーの謎

がん患者の体温と血流の研究で解明

 新潟大学の安保徹教授が提唱する免疫論は、自律神経作用を基盤に、薬や負荷の高い治療からの脱却を呼びかけている。三月二十日、千代田区で行われた「がんとどう向き合うか――がん患者のための特別講演会」(伊豆予防代替医療センター主催)において、ミトコンドリアのがん治療に及ぼす効果が明らかにされた。

●心身の無理ががんを引き起こす
 多くのがん患者の調査にもとづき、がんの発症が心身にきわめて高い負荷がかかることから起きるとする安保理論では、がんからの脱却は、生活を見直してストレスから逃れることであると明快に主張する。
 安保教授の研究から明らかにされたのは、がんという病が、能力の限界を超えた長時間労働や極端な夜更かしなど高いストレス環境下に長期間身を置いているか、職場や家庭で心に深い悩みを抱えて生きている人に発症しているという事実である。
 このような過酷な生き方は、医学的には交感神経緊張状態と表現される。交感神経緊張状態では、白血球中の顆粒球が増加し、体内の常在菌と反応して炎症を起こすため、口や胃、大腸の粘膜がただれるほか、歯周病などがみられ、女性では子宮内膜症、卵巣膿腫などを起こす。一足飛びにがんになるケースがさほど多くないとすれば、これらの症状を、「がんの前ぶれとみて注意しなければならない」と、安保教授は指摘する。

●血流障害→低体温→細胞の異常増殖
 交感神経は、人間の活発な活動を支える一方、過度の緊張は、血管収縮から血流障害をきたす。このため、さまざまな病気において交感神経緊張が体温低下を引き起こしており、とくにがん患者では健康な人(36・0~37・0℃)より低体温(36・0℃近辺かそれ以下)が顕著で、エネルギーが落ちた状態にある。
 血流が抑制された状態では、炎症を起こした組織修復も困難である。破壊された組織は、悪条件の中で分裂を繰り返す。これが細胞のがん化である。本来、細胞の分裂は、厳密な制御機構のもとで行われ、無制限には行われない。ところが、供給されるべき血流が途絶えた状態では、この制御機構が働かず、細胞が異常増殖することががん化に関連する。
 自律神経のうち副交感神経が支配する白血球中のリンパ球比率が30%以上あれば、がん細胞を排除することができるが、自律神経バランスが交感神経に偏って、リンパ球比率が25%を切れば、そこには「がんの芽ができる」(安保教授)という。

●酸素不足とミトコンドリア
 今年になって、低体温の弱点が明らかになった。酸素不足がそれである。これは、細胞内で酸素を使って大量のエネルギーを生成するミトコンドリアの機能が抑制されていることを意味する。
 ミトコンドリアは、細胞内小器官で、ひとつの細胞内に最低百個(心臓、脳、筋肉には数千個)存在し、電子伝達系で酸素を用いて大量のエネルギー産生に寄与する。安保教授は、「二十億年前、人間の細胞は酸素のない状態で分裂していたが、その頃酸素大好きなミトコンドリアが寄生してくれたおかげで、もっと大きなエネルギーをつくれるようになった。同時に、細胞分裂を抑制する遺伝子がもちこまれた」とし、「がんは悪者の細胞ではない。ミトコンドリアの機能が抑制されて、われわれの細胞が先祖返りして分裂過剰になったもの。いわば、一種の生き残り戦略として細胞ががん化している」と述べる。
 低体温のがん患者では、このミトコンドリア機能の抑制が認められる。血流不足、酸素不足でエネルギー産生が低下しているために、顔色は悪く、疲れやすい。さらに、蛋白質合成もスムーズに進まないため、皮膚の弾力は低下し、筋肉の収縮能は落ちる。
 このミトコンドリアを活性化させることができれば、種々の症状に大きな改善がみられるのではないか。
 
●ミトコンドリアを元気にする
 がんを含む種々の病気治療に高い効果を上げるのは、からだを暖めることである。
 深部体温(直腸温)を39・5℃に上げるような入浴法の実践が、伊豆予防代替医療センターでがん患者の治療に効果を上げているという。
 普段の生活で行える方法としては、
 1.入浴による体温上昇(41℃の湯に約三十分)、2.体操で筋力を強化し、内部から体温を上昇、3.電磁波によるミトコンドリアの活性化がある。3.については、玉川温泉(秋田)や三朝温泉(鳥取)のように、ラジウム放射能の存在する温泉の効能に代表され、日常生活では、日光浴によって赤外線や紫外線を適度に浴びることが勧められる。
 もうひとつの手軽な方法は、「野菜を摂ること」(安保教授)。野菜に含まれるカリウムの中に、ごく微量ミトコンドリアを活性化するものがある。野菜と果物には、肥料として窒素、カリウム、リンが与えられている。意識的にこれらを摂ることがミトコンドリア機能を活性化し、体内のエネルギー産生を促すのに効果があると考えられる。このほか、玄米や発酵食品を取り入れると、体内pHが調整され、便の腐敗もなくなる。
 安保教授は、血流障害に拍車をかける抗がん剤等の治療に反論し、人間の自然のメカニズムを重視する姿勢を崩さない。
 「がんは悪者じゃない。ある患者さんは、がん細胞を『過酷な生き方を教えてくれた命の恩人』と呼んで、がんに向かって『ありがとう。無理したおかげでつくっちゃってごめんなさい。せっかくできたんだから、すぐ消えなくてもいいよ』と声をかけている。
 がんがよくなったどうかの指標は、腫瘍マーカーでもサイズの退縮でもない。からだがぽかぽかして、顔色がよくなって気分がいいか、便の腐敗が減ったかなど、自分で気づくことができる」と締めくくった。

摂食障害の身体的問題とその治療

第47回日本心身医学界総会教育セミナーVIII
「摂食障害の身体的問題とその治療」

第47回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(2006年5月31日、日本教育会館)ランチョンセミナー「摂食障害の身体的問題とその治療」のご講演をレポートしました。

鈴木(堀田)眞理 (政策研究大学院大学 保健管理センター教授)

 摂食障害のうち拒食症は低栄養による合併症が大きな特徴です。低血圧、徐脈、低体温をなどの身体症状は、摂取エネルギー不足に対して省エネ体制になったからだが起こすものです。興味深いことに喘息やアトピーなどは一時的に改善しますが、拒食症に合併した高コルチゾール血症の効果と考えられます。
 本症では低栄養による高コレステロール血症ややせや自己嘔吐に伴う高アミラーゼ血症を認めます。治療は体重や摂取エネルギーの増加が本来の治療ですが、食事制限という誤った治療をされたりもします。一般検査で異常がない場合でも、栄養マーカーであるインスリン様成長因子I(IGF-I)やトリイオドサイロニン(T3)、月経に関係ある女性ホルモン値には異常が出やすいので、この結果を説明して、患者さんの病識や治療動機を促します。
 重篤な合併症には低血糖昏睡があります。標準体重の50%以下や20kg台の体重になると、肝臓グリコーゲンはほとんど枯渇しているので、わずかな食事時間のずれやいつもより摂取エネルギー量がちょっと少ないだけで、低血糖を起こします。朝、「よく寝てるわね」と思っていたら低血糖昏睡ということもあります。低血糖治療のためにブドウ糖を急激に大量に入れると、インスリン分泌は低下しているのでかえって高血糖になります。
 下剤乱用の合併も多く、1日に300~400錠も服用することがあります。下剤乱用では脱水だけでなく、低カリウム血症、低ナトリウム血症などの電解質異常をきたします。自己嘔吐する例では、胃液の水素イオンを失うため体液がアルカローシスになり、さらに低カリウム血症が増悪します。
 低カリウム血症は主要な死因の一つである不整脈や筋力低下、麻痺性イレウスの原因になります。カリウム補給のためにカリウム製剤やカリウムの多く含まれる食品(ドライフルーツやホウレン草など)をとるように指導します。
 拒食症の患者さんは、外食させると残さず食べるというので、無理矢理外食に連れ出した母親がいました。昼食に1人間前のスパゲッティを1時間かけて水で流し込んで食べたあと意識消失し、救急車で運ばれました。上腸間膜動脈症候群でした。胃排出能は遅延しています。そのような状態で無理矢理食べさせることには危険が伴います。
 成長期にこの病気にかかると、低身長、骨粗鬆症、初潮未発来(無月経)などの深刻な後遺症が残ることがあります。身長の第2スパートにあたる9歳から14歳に拒食症になると、身長の伸びが鈍化し、予想された最終身長まで伸びないことがあります。身長の伸びに関連の深いIGF-Iの分泌が低下するBMI>16kg/m2の期間を短くすることが低身長の予防です。
 日本人女性の骨密度の頂値は14~15歳で獲得されます。骨粗鬆症の最大の予防方法は頂値を上げることです。骨密度の低下も拒食症の主要な合併症です。体重や月経が回復しても骨密度は正常域まで回復しないことがあり、骨粗鬆症の予備軍になります。
やせに伴う合併症でもっともやっかいなのは飢餓によって惹起される異常行動や精神症状です。食べ物への執着や過活動、記銘力、思考力、判断力、洞察力の低下、不安定な気分や抑うつなど情動の異常などで、高度な知的作業である心理療法の大きな障害になります。一般的に35~40Kgまで回復しなければ有効な心理療法ができません。そのためにも内科的治療を優先します。
 しかし、体重が増えると現実がはっきり見えて不安なので、「困るとやせる」が彼女たちの病理です。このため、心理教育的アプローチで科学的で詳細な医学情報を提供しつつ教育して、やせのメリットを上回るような治療動機を持たせることが、治療の第一歩です。本人の体重増加への非論理的な恐怖にも配慮して、急激に太らせない、受容できる体重にとどまる栄養摂取量を教える、楽に食べられる食事、カロリーのわかった食品の利用など、医療者が柔軟に対応することが大切です。最終的には、彼女たちの苦手なコーピングスキルを向上させる治療を行い、社会性を回復していきます。

精神医学・医療の専門性の確立を目指して

第101回 日本精神神経学会総会(2005年5月18日、大宮ソニックシティ)
「精神医学・医療の専門性の確立を目指して」でのご講演をレポートしました。

摂食障害は、長期化と難治傾向の2つを併せもち、一人の治療者が患者を診続けることが少ない病気である。精神科、心療内科、内科、婦人科、小児科などが診療にあたるが、患者の治療中断率は30%に達し、治療者自身の個別性が「科」の枠を超えにくい。治療者が変わり「科」が変わっても、摂食障害の治療継続は可能か。  この問題を考えるはじめての試みとして、6人のパネラーを招き、「摂食障害の治療──診療科を超えたクロストーク」が行われた。  司会は、石川俊男(国立精神・神経センター国府台病院心療内科)と切池信夫(大阪市立大学大学院医学研究科神経精神科)の2氏。

■鈴木(堀田)眞理
(内科──政策研究大学院大学保健管理センター)


 拒食症の患者のからだを診る内科医の役割は、プライマリケアにあります。初回来院時には、まずクローン病などほかのやせをきたす病気との鑑別診断が重要です。次に栄養アセスメントを行い、本人の了解なしに身体的理由で緊急入院させることもあります。低血糖性昏睡などの合併症、長期間の低体重から起こる低伸長や骨粗鬆症といった後遺症なども、精査・予防の必要があります。
 14~15歳がピークとなる骨密度を、この時期にどれだけ上げておくかが骨粗鬆症の最大の予防ですが、本症の患者は25%が14歳以下で発病するため、後年のQOLにも大きな影響があり、低体重期間の長期化はきわめて危険です。
 拒食症の患者は、やせていることに安心を見出す心理状態にあり、無理に太らされることを何より恐れています。体重があってもストレスに対処できなかったことが、やせによってさらに心身機能と問題解決能力の低下をきたします。
 治療は、栄養療法と精神療法が二本柱ですが、体重が35kgないとカウンセリングには不適なので、栄養状態を高め、通常の思考能力がもてる体重を回復してから、精神科による治療を行います。
 患者は、医者を敵視しているため、治療に入る前に必ず、(1)患者の信頼の獲得、(2)治りたいという意欲の創出、(3)当面のストレスの解消、(4)安心できる療養の場の整備の4つに働きかけます。患者の心理を受容し、丁寧にデータを示して説明し、受容体重を確認し、摂取カロリーを示しながら、治療計画を立てます。この4つが確立できてはじめて、身体的治療と精神療法という本来の治療が可能になるので、ここに最大の労力を投じる必要があります。この段階が不十分だと、患者はドクターショッピングを繰り返し続けます。
 入院は、生命の危険のある緊急入院を別にすれば、すべて計画入院で、教育入院もあります。長期休暇を利用したり、時には病院から通学もします。
 やせの程度が重症であるほど内科の役割は大きいのですが、問題行動の患者や、体重回復後の認知のゆがみ是正に、精神科との連携は不可欠です。家族の協力も重要で、専門の栄養指導や勉強会なども行っています。
 また、月経発来には、健康体重の85%が必要ですが、70%を切っていても、本人の希望によってホルモン補充療法を行うこともあります。

■瀧井正人
(心療内科──九州大学大学院医学研究院心身医学)

 主に拒食症の患者を、行動制限を用いた認知行動療法で治療しています。患者は本来の心の問題から回避しようとして、さまざまな行動を起こすので、それをブロックすることにより、中心的な問題に目を向けざるをえなくすることが目的です。体重回復とともに徐々に行動制限が解除されていくプログラムを適用しています。拒食症が病棟の半分を占め、在院日数の長さとBMIの向上度が比例しています。この方法には、重度の境界性人格障害には向かないこと、表面的な治療になりがちなこと、入院期間が長いなどの限界もあります。

■山岡昌之
(心療内科──国家公務員共済組合連合会九段坂病院心療内科)


 拒食症の患者は、母子間の基本的信頼関係が不十分なことが多く、退行現象もみられるため、自我を育てる必要があると考えます。そのために、(1)手をつなぐ、一緒に入浴するなどして身体的接触を行い、統合が行われていない身体の自己化を促す、(2)説得や否定ではなく母親の受容による安心感獲得など、情緒応答性の回復を目指します。患者の退行レベルに応じて、親が成長のサポートをする「再養育療法」を行っています。また、夫が妻を支えることも大きなポイントです。
 治療は、臨床心理士の協力を得ながら、外来と家庭で行います。この方法では、患者の意欲以前に家族機能が高まることで効果が上がり、母親が変わっていくことで、「お母さんがわかってくれる」と患者が感じるようになると、症状も改善されていきます。

■西園マーハ文
(精神科──東京都精神医学総合研究所児童思春期研究部門)

 プライマリケア医によるオリエンテーションを経て精神科を受診する欧米と異なり、日本では、家庭からの直接受診や、学校や小児科・内科・婦人科などの紹介で精神科を受診します。精神科の敷居はまだ高いのが現状であり、精神科への過大な期待なども治療を難しくしている一因です。
 産後うつ病の中で生じる摂食障害を多く診療していますが、相手によって言動が変わるスプリッティングや、現実と理想とのギャップもあるので、患者自身の生活上の工夫が必要になります。また、標準体重を過度に重視したり強制しないことも心がけています。
 主治医が変わっても治療の連続性が保てるよう、治療者どうしの情報交換や連携を行い、患者を中心として治療を組み立てていくことが大切です。

■鈴木健二
(精神科──国立病院機構久里浜アルコール症センター)

 摂食障害のうち、過食・排出型を主に扱い、集団療法を取り入れて治療しています。摂食障害は、アルコール依存と同様、アディクションの特徴がある慢性疾患で、うつ、不安障害その他の依存症も合併してきます。
 回復は、体重→社会性→食行動→心理面の順で、時間を要し、再発も多い疾患です。治療戦略としては、外来と入院を組み合せて治療意欲を保つようにし、家族会やリハビリテーションプログラムを多彩に用意し、心理教育、認知行動療法、作業療法などをすべて集団で行って、効果を上げています。

■傳田健三
(精神科──北海道大学大学院医学研究科精神医学分野)

 小児の摂食障害を診ていますが、ほとんどが拒食症です。摂食障害は位置づけとして慢性疾患であり、基本的には、統合失調症やうつなど、大人の精神疾患と同じように精神科でアプローチできる病気です。
 子どもの拒食症の特徴は、ダイエットではなく不食による体重低下が多いことで、不登校があり、肥満恐怖ややせ願望を口にしないので、身体疾患に近いと考えたほうが治療しやすいと思います。大人とちがって、治療の動機づけが不十分なほか、体脂肪が少ないために急激に重篤になる危険性があります。
 同年代の中での治療が効果的で、食事日記を書かせるなどして、チーム医療で取り組んでいます。低体重の患者は入院、過食は外来で治療しています。

[クロストーク]

 患者との距離について、「心療内科が患者に寄り添う傾向があるのに対し、精神科はクールなのでは」(石川)との発言に対し、「治る患者を見ていると親との接触がある。精神科ではタブーとされる方法だが、治っていくので取り入れている。問題行動が大きい場合は、精神科にまわす」(山岡)、「こちらが一生懸命になると患者にもきつい。病気とつきあっていくという姿勢も大切」(瀧井)、「精神科医もエネルギーを注いでいる。ただ、患者の意志を確認し、主体性を尊重しているために突き放していると見えるのか。闘病期間が社会的空白にならないように工夫が望まれる」(西園)、「精神科で行う濃密な家族療法に限界を感じ、家族を共同治療者として協力関係を築いている」(傳田)、などの意見が上がった。
 「患者が一般科から精神科にまわってきた場合、またその逆の場合、どう受け入れるか」(石川)との問いには、「併存症をもっている患者は精神科医の得意とするところ。一般科との役割の違いはある」(鈴木健二)、「患者自身に聞いて、解決されていない問題を確認して治療にあたる」(西園)、「精神科でひどいことをされたと言う患者は思いこみが強い。その認知のゆがみを緩和するのが内科医」(鈴木眞理)、「いろんな施設をまわってきた患者には、今までの治療はすべてプラスになる、と言う。治療者の熱意や誠意に患者は敏感」(山岡)などと答えた。
 精神科医については、「薬に頼って精神療法などについて勉強不足」(切池)との苦言や、「心療内科のドクターのほうが精神科医より一生懸命やっていると感じることもある」(鈴木健二)など、さらなる専門性強化の提言と、慢性病と位置づけられるこの病気に対し、各科の連携と多様な方策の必要性が強調された。