特定健診・保健指導

メタボ・キャンペーンの裏で奮闘する現場

産業医、産業看護職、企業人事労務、保険組合などが「さんぽ会」に集結し、率直に意見交換

参加者数今年度最多の6月月例会
 15年の活動実績を持つ「さんぽ会(http://sanpokai.umin.jp/)」(会長:住吉右光氏)月例会に、6月19日、今年4月から開始された特定健診・保健指導に関する情報交換のために産業保健現場のあらゆる職種が集まった。この日の月例会は約130名と今年一番の参加者数となり、発言者、聞き手ともに真剣な面持ちで、2時間あまりを過ごした。
 さんぽ会(産業保健研究会)は、1993年、順天堂大学医学部公衆衛生学の研究会として発足して以後、職域での多様な健康問題について、現場の健康管理スタッフの勉強・意見交換等に貴重な交流の場を提供し続けてきた。
 現在同会の事務局長を務める福田洋氏(順天堂大学総合診療科)は、6月下旬の産業衛生学会でも「多職種産業保健スタッフのネットワーキングを通じた経験、努力、エビデンスの共有」と題したさんぽ会の活動において同学会奨励賞を受賞している。
 この日は、まず5月に実施したアンケート結果を報告、引き続いて、健康保険組合、事業所、健診等の委託業者の立場から話題提供者として参加した7名が、フロアの参加者とともに現状を報告し合った。

メタボ健診開始直後のアンケート
 今回のアンケート回答者97名のうち、61%が企業に勤務しており、保健師が52%、管理栄養士1%のほか、医師歯科医師21%、看護師16%、事務系・運動系で各1%を占める。6割強が、特定健診・特定保健指導について188ページにわたって詳述された「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」をひと通り読了しているものの、研修についてはほぼ同数が未受講であった。
 特定健診については、「すでに行っている」が3割強、約4割が年度内実施予定。保健指導については、実施がまだ1割強で、被保険者については「(階層化された)対象者全員」「優先順位をつけて行う」「未定・検討中」が約2割5分ずつあり、「希望者を中心に」が約1割。被扶養者への保健指導は、4割強が「未定・検討中」だった。
 メタボ対策としてのポピュレーション・アプローチ戦略は、半数以上がパンフレット配布等の情報提供やウォーキングキャンペーンを実施しており、歩数計等のグッズ支給、朝礼や講演会などで労働者に自覚を促している。
 特定健診については、4割近くが「制度そのもの」や「デジタル化」を問題点として挙げ、「被扶養者の受診率の低さ」、「マンパワー不足(他の業務との兼ね合い)」、「腹囲の妥当性」がいずれも3割近くに及んだほか、受診券発行などの事務手続き上のトラブルなどが挙げられた。
 保健指導の問題点は、4割弱が「マンパワー不足」を挙げており、「支援スキルとフォローの困難性」、「メンタルヘルス疾患等メタボ以外の疾病の扱い」が、3割超でこれに続く。
 自由意見では、喫煙対策やメンタルヘルス対策、がん検診など従来力を入れてきた保健指導の先細りを懸念する声や、外部の委託業者との連携法、人間ドックとの兼ね合いをどうするか、などが挙がった。
 新たに検査項目に加わって医学的なエビデンスが何かと取り沙汰される腹囲については、「健診の流れに組み込んだ」「心電図と一緒に測定」など、受診時の大きな混乱もなく、全般にほぼスムーズに受け入れられたとみられる。
 5年後のアウトカム次第では、後期高齢者医療支援金が加算されるペナルティが保険者に課される(かんもしかわら版詳報08年1月30日号参照)が、すでに「ペナルティを辞さない」覚悟の健保もあり、保健指導に対する負担感の大きさが窺える。

条件は各所各様、悩みは共通
 一部には特定健診以前から、健診受診者にすべて個別の保健指導を実施していたり、社員食堂にヘルシーメニューを取り入れている企業もあるが、階層化システムがまだ機能していない、全社員への周知が不徹底など、開始にあたっての条件はばらついている。ただし、一様に顔をしかめるのがシステムの問題。
 健診データは、医療保険者や事業所、外部委託業者の間で電子的に受け渡しすることとされているが、階層化を含むデータ・システム上のトラブルが全国各地で確認されており、スムーズな運営にはまだ時間を要する見込みである。このほか、メタボが疑われた受診者がメンタル面で問題を抱えている場合の対応や、健診や保健指導の委託先の実力のみきわめも、共通の課題となっている。
 集合契約においては、特定健診受診のために受診券が必要となるが、その発行がスムーズに行かないことや、健診内容が大きく変わったことが周知徹底されておらず、これまでに地域で受けた基本健診が受診できないとの苦情が一部の健保に寄せられるなどのトラブルもある。
 メタボ健診をリスクマネジメントの視点で考えると、最終的には保険者責任となるため、健診や保健指導を外部委託したとしても、委託先に責任転嫁することはできない。ポイントを稼ぐことよりも、真に効果を上げ、メタボに隠れる重大な疾病を見逃さない工夫が必要で、多くの専門職は実施に抵抗感をもっている。
 目標達成に向けては、委託業者が労働者の働き方や食事の取り方に至るまで可能な限り社内事情を理解することはもちろん、健保など保険者と健診・指導の委託業者、事業所人事部等を含めた関係者すべてが連携し、協力すること。まずはこの認識の一致が不可欠という声に、参加者は深く頷いていた。

     ※厚労省では、同省サイト上で定期的に特定健診・特定保健指導に関するQ&A集(http://wwwhaisin.mhlw.go.jp/mhlw/C/?c=129003)を更新しており、6月27現在、下記のように、実務上の細かな質問が寄せられている。 ○ 腹囲が基準内であっても、内臓脂肪100平方cm以上の者の取り扱いは? ○ 検査項目に欠損があった場合、階層化はできるか? その場合、特定健診を行ったとみなされるか? ○ メタボの判定のない健診結果や、腹囲・メタボの判定なく、階層化に必要な質問票のない場合は? ○テレビ・インターネットを介した保健指導は初回面接、個別支援とみなされるか。

日本栄養・食糧学会が 「特定健診・保健指導の現状と今後」でシンポジウム

「健診項目の選択は保険者の裁量」──尼崎保健師の野口緑氏語る

「健診の目的は早期介入」:プロたちの証言
 女子栄養大学で開催された日本栄養・食糧学会(女子栄養大学・岡崎光子会頭)において、五月三日、「特定健診・保健指導の現状と今後」と題するシンポジウムがもたれた。
 はじめに、座長の津田謹輔氏(京都大学)がメタボリックシンドロームの定義を再整理したのち、厚労省健康局生活習慣病対策室の常賀由子氏はじめ、予防医学や保健指導に従事する現場の専門職五名が貴重な報告を行った。
 常賀氏は、「保健事業の成果を高めるひとつの方策として、メタボリックシンドロームの概念を導入し、健診と指導を義務づけた。生活習慣病を川のイメージで捉えると、症状が下流に行く(重篤化する)前の段階で食い止めなければならない。厚労省のホームページにあるエクササイズガイド、食事バランスガイド、禁煙支援マニュアルをはじめとしたさまざまな学習ツールも是非活用してほしい」と語った。
 続く日本赤十字社熊本健康管理センターの小山和作氏は、今回の取り組みを、過去の健康作り政策の失敗に鑑みた予防医学への期待と捉え、「医療費抑制という明確なアウトカムを目指して、病気探しではなく、保健指導のために健診を行うことに意義がある。セルフケアのノウハウをつかむのは個人。今度こそ成功させたい」と力をこめた。
 野村病院予防医学センターの高橋英孝氏は、効果的な保健指導には人材の育成が不可欠として、人間ドック学会が精力的に取り組んでいる人間ドックアドバイザーと人間ドック食生活アドバイザーの認定状況等の現状を紹介した。
 神奈川県秦野保健福祉事務所ほか日本栄養士会の要職を務める迫和子氏は、21世紀の管理栄養士の役割を栄養ケアマネジメントであると明快に整理した上で、成果を上げるための保健指導には技術の標準化・統一化が不可欠と述べた。栄養ケアマネジメントの拠点となる栄養ケアステーションの全国都道府県への整備と、人材育成など、日本栄養士会の積極的な取り組みも紹介した。

尼崎はなぜ成果を上げられたのか
 兵庫県尼崎市の保健師である野口緑氏が行った報告は、とくに衆目を集めた。かつて尼崎では、職員の現職死亡が年平均12人、長期療養を必要とする休職者は年平均50人を数える「不健康」組織であった。これに対して生活習慣改善に向けた保健指導を積極的に取り入れ、職員の心疾患による死亡をゼロにした取り組みは全国的に有名である。以下に、野口氏の発表を抜粋再録した。

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 尼崎市では、2000年から市役所職員の健康管理を行ってきました。
 それには、57歳で倒れたある男性の事例を「予防しそこねた」経験が大きなきっかけとなっています。脳梗塞や心筋梗塞は、一足飛びに死に至るわけではありません。15年から20年という年月を経て発症します。明らかな異常が発見されるまでにも、必ず予兆があります。いつの時点でその人をどう予防することができただろうと考えると、健診受診者に、脳梗塞や心筋梗塞が一定の経過を経て発症するという疾病のメカニズムを理解してもらうことが重要であるという結論に至りました。
 男性については、2003年から4500人について腹囲測定を開始した結果、メタボリックシンドロームの該当者が2003年には20.8%、2004年は17.2%、2005年は14.4%と着実に減少させることに成功し、対策実施前に5名であった虚血性心疾患による死亡数を、5名から0名にすることができ、循環器疾患による休職者も大幅に減少しました。これは同時に、医療費削減という成果でもありました。

 医療保険者の立場からみた大目標は、医療費の適正化です。まず、国保加入者18万人の中で、特定健診の対象者は10万人でした。1年間でレセプトが1枚で200万円以上になっているものを拾い出すと、多くが血管系の病気であることがわかりました。平均単価の高い疾患です。
 一方、人工透析患者の状況は、昭和43年(1962年)から、年間に100人ずつ増加していました。それらの人の平均レセプトが550万円なので、100人分では年間5億5千万円の医療費増という計算になります。全部が予防できないにせよ、糖尿病によるものが40%としても、2~3億円という多額の医療費です。これを市民に還元するためには、予防に力を入れるしかありません。
 特定健診・保健指導では、受診率65%、保健指導実施率45%の実現により、メタボリックシンドロームとその予備軍10%減が目標に掲げられています。
 尼崎では、国の平均よりメタボリックシンドローム該当男性が多く、年齢とともに、太っていないのに内臓脂肪過多の人が増える傾向がありました。これらの人に対して保健指導を行った結果、6ヵ月で8割に改善がみられました。

 行動変容のために、「血圧が高いので、ラーメンの汁は残しましょう」とか「血糖が高いので腹八分」などと言ったところで、「どこが八分かわからん」という反応です。「このデータでは9割の人が倒れる」と言っても、「俺は残りの1割や」とすましている男性に、知識や指示、因果関係などを説明しても、自分のからだの状態を理解してくれるところまでいきません。
 つまり、保健指導は、「自分の問題として気づかせる」ことに大きな意味があるということです。これに気付いて私たちは、本人が自分で選択できるような形での情報提供に努めました。
 今回のメタボリックの概念導入の最大の功績は、肥満・内臓脂肪という共通の根っこから、高血圧、高血糖、脂質異常などが生えているようなイメージ、つまり「疾病の根はつながっている」ということを明らかにしたことです。
 保健指導は、個々の対象者について経年表(下図)を作成して、
 ○体重が変化した(増加した)のはいつ?
 ○その時、ほかのデータはどうだったか?
 ○その時、生活状況はどうだったか?
を対象者本人が自分で気づくことができる形で情報提供することから始めました。

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 自分の今の状況で、どこまでが有所見か、最終的に何にたどりついてしまうのか、その数値は、他のどの検査データとつながっているのかがわかると、「そうか! 俺は、やせたらええんやな!」と、本人自身が行動変容を起こしはじめます。
 それと併行して、行動変容の助けになるような客観的な情報、たとえば、「アルコールの種類とアルコール量の表」や「ビールジョッキ一杯にスティック5本分の砂糖と同じ糖分が入っている」などを伝え、これまで繰り返していた生活習慣について具体的に考えてもらうきっかけとします。

 もうひとつ、LDLやCKDなど、これまで除外項目とされてきたものについても、尼崎では、漏らさずチェックしていました。健診項目のどれをチェックするかは、保険者の裁量です。尿蛋白が出ていなくても腎機能障害の人もおり、そのあたりに検査値のむずかしさがあるといえます。
 今回のメタボプロジェクトでは、内臓脂肪蓄積のあるマルチプルリスク者に対する積極的指導となっていますが、はずれた人を放置するのか、といえば、尼崎では、やはり、それはやめようというのが取り組みの基本的な姿勢です。内臓脂肪がないとはいえ、血圧240mmHgの人を放っておくことはできません。検査値ごとに、丁寧に問題のある人を抽出し、保健指導を行ったことが、効果を上げたのだと思います。ヘモグロビンA1cでも、健診データとレセプトの突合は、未治療者の掘り起こしにつながります。健診データをどう見て、指導にもちこむかには、特に神経を使っています。
 「費用も人手もかかるのに、なぜ保健師がそこまでのデータを出せるのか」と聞かれることもあります。データは、市の財政担当者に市民の健康状態の実情を認識してもらうための重要なツールであると認識しています。たくさんあるデータの中から、とくに重要だと思われるものについて、問題が見えやすい形に加工することで、今のままの状態を放置すると、市の社会保障制度が堅持できないと納得してもらい、事業の妥当性を示して予算をつけていただきました。まさにデータの力です。
 病態レベルに至っている人を丁寧に保健指導し改善するには、管理栄養士の協力が不可欠です。メタボ対策、これからの予防のキーワードは「連携」です。ひとつの職種ではなく複数の専門職が共同して、分業するのではなく、実態をもとに、みんなで話し合う体制が、健康レベル向上をもたらすと考えます。

※図は、尼崎市国民健康保険特定健康診査等実施計画 P34
(平成20年4月、尼崎国保年金課)より許可を得て転載

特定健診・特定保健指導「で」何ができるか

~「メタボ元年」は保健医療専門職の意識・行動変容から~ 
             日本健康教育学会の交流型セミナーより


◆現場からの話題提供
地域から:池田康幸氏(埼玉県三芳町保健センター管理栄養士)
職域から:五十嵐千代氏(富士電機リテイルシステムズ(株)健康管理室主査)
医療保険者から:中村貞次氏(トヨタ関連部品健康保険組合常務理事)
◆ゲストコメンテーター
津下一代氏(あいちの森健康科学総合センター長件健康開発部長)
藤内修二氏(大分県佐伯県民保健福祉センター長)
岡田邦夫氏(大阪ガス(株)人事部健康開発センター統括産業医)
◆コーディネーター・進行
岩永俊博氏(地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター常勤顧問)
武見ゆかり氏(女子栄養大学教授)

■予防はハイリスク者から
 4月から国を挙げてのメタボ対策がスタートする。今後5年で「40~74歳の健診受診率70%、保健指導実施率45%、メタボ予備軍10%減」を目指す。ただのキャンペーンで終わらせないために、健診受診者に個別対応を徹底する方策をとる。まず健診でハイリスク者を特定・抽出し、リスクに応じた保健指導によって行動変容をもたらし、メタボ脱却へ導くという成果が、実施責任者たる医療保険者に求められる。多くの健保組合がすでに独自の対策プログラムを開発しており、保健指導担当者は、いかにして成果を上げるかに頭を悩ませている。まずは、やってみて、その途上で必要に応じて軌道修正するというのが現実的な姿勢である。
 大筋は、国民病である糖尿病を含む医療費抑制(2024年度の医療費2兆円減)のため、生活習慣病リスク者をメタボリックシンドロームという名のもとに括り、予防を徹底することが今回の取り組み。中でも60代の透析患者の治療費年間一兆円が、退職後、健保から国保に切り替わって生じる医療費であることに着目し、より早い段階で対処するため、勤労世代の予防にターゲットを絞った。
 1月12日、日本健康教育学会が女子栄養大学で開催した参加交流型セミナーでは、保健指導に当たる専門職たちが本音をまじえて率直に討議した。当日の多様な意見の中から、現状での問題点を整理した。

■メタボにどれだけのウェイトを置くか
 地域での国保による健診を別にすれば、今回の特定健診・特定保健指導は、勤労世代の男性が主たる対象となる。つまり、職域を中心とした取り組みとなることから、健康保険組合が実施者となり、事業主の責任となる。
 これまで健保組合の業務は、被保険者負担分を除いた医療費の支払いがメインであり、今回被保険者の健康レベルの把握と改善が課されたことは、「大異変であり、コスト増」(トヨタ関連部品健保・中村氏)というのが共通の認識であろう。同健保組合は、愛知県を中心に150社、12万人が加入する総合健保で、医療費の四分の一を生活習慣病が占める。     
 医療費削減につながる予防重視施策に異論をもつ人はない。ただ、生活習慣病予防は、これまでにも職域で取り組まれ、一定の成果を上げてきた。また、産業保健のテーマには、メンタルヘルスや過重労働等、総合的に労働状況を調整する必要のあるものも多い。この中で、情報提供、動機づけ支援、積極的支援の3段階に分けて支援計画から実施・評価まで厳格に個別対応するメタボ予防にどれだけのウェイトを置くべきかが、現場担当者を悩ませている。
 現実問題として、3ヵ月以上継続的に行う積極的支援については、多大な労力を要することからアウトソーシングが有力であり、新たな官製ヘルスケアビジネスに受託企業が殺到している。アウトソーシングにあたっては、提供される保健指導の質やマンパワーのみきわめと、企業側での労働調整も必要となる。
 健診結果の階層化、個別対応のためのIT投資など、医療保険者の規模や資金力によっては、取り組みの内容に差異が生じることが予想される。健保を擁する大規模事業所でも、地方の散在事業所での保健指導がどの程度確保できるか、政府管掌健保の被保険者、被扶養者などの保健指導が具体的にどうなるか、多くは未知数である。
 メタボキャンペーンがカバーしていない喫煙や非肥満者の健康問題、健診結果に異常が見出されなくても生活習慣に問題がある20代30代の予防など、今後検討を要する問題も残されている。

■「ポイント制」の是非
 保健指導は、動機付け・積極的支援とも1人あたり20分以上の個別支援か、1グループ8名以下80分以上のグループ支援の形態で、健診結果の理解や生活習慣の振り返り、生活習慣改善の必要の説明に始まり、健康に関する知識や食事・運動等具体的な生活改善の方法に関する指導、行動変容動機の形成、プランづくりなどの内容で行い、6ヵ月後に評価する。
 当初、厚労省では到達すべき数値目標の設定にとどめていたが、「したことにしてすませる」といった現場の姿勢に歯止めをかけ、支援の実施状況をより明確にするため、積極的支援にポイント制を導入した。これは、支援の内容と形態でポイントを算定(実践的な指導-個別支援5分間20ポイント、実施状況の確認-1回5分間以上の電話支援10ポイントなど)し、規定に従い合計180ポイント以上の支援実施を最低条件とするもの。
 現場担当者の具体的目標とはなるが、細部にわたる規定が自由度を奪うおそれや、ポイントをこなすことに追われて本来の目的を見失うことなどがやや懸念される。ただし、解釈次第では自由な取り組みの妨げとはならないとの指摘も一方にある。
 今後五年間で目標に対して成果を上げた医療保険者には、後期高齢者医療支援金として、保険者が地域の広域連合に拠出する負担金に対し、公費から10%が付与され、実質減算される。これが保険者のモチベーションとなって、被保険者の目標達成を支援するという構図となり、成功すれば保険料の低減にもつながる。逆に、目標達成に至らない保険者には10%加算のペナルティが課され、被保険者の保険料上昇を招く結果となる。

■対象者より支援者が行動変容を
 健診後は、リスクの階層化にもとづいて主として保健師と管理栄養士が、保健指導にあたるが、生活習慣の改善には、本人のやる気に加え、企業風土を含めドロップアウトなく行動変容維持を支える環境整備が不可欠となる。その意味でも、今回の討議においては、ハイリスク者をターゲットとした取り組みにもかかわらず、「いかにしてポピュレーションアプローチとリンクさせるかがポイント」という見方が強かった。
 保健指導を受けた対象者は、アドバイスを受け入れたかに見えても行動が伴うとは限らない。後期高齢者医療支援金がインセンティブとなる保険者ほどに、個人に対して強いインセンティブを形成することはむずかしい。対象者の健康観は、自身の経験の中で培ってきた思考の枠組み(スキーム)の中にあるためで、このスキームに働きかけ、主観的健康感と客観的健康度の乖離を埋めない限り、行動変容を起こすには至らない。
 保健行動学の知識を踏まえた上で、対象者のQOLに照準を当て、「幸せであるために健康に関する知識をもち、自分の健康状態を知る必要があること、さらにそのための手段として健診や保健指導があることを理解してもらう」(岩永氏)という専門職ならではのアプローチが必要となる。
 とはいえ、五年後の成功を確信する声はない。個別支援への負担感も強い。わずか20分の動機づけ面接を一回行ったとして、果たして6ヵ月で人が人の健康観と行動を変え、成果を上げられるのか。
 さらなる指導技術の向上とともに、気の進まないハイリスク者が喜んで保健指導を受けるような魅力的な支援プログラムを提供できなければならない。「対象者の行動を変容させようとすれば、むしろ支援に当たる専門職のほうが従来の活動の不十分な点を見直し、真摯に行動変容していくべき」(岡田氏)というシビアな指摘の通り、専門職の手腕とプロ意識が問われている。

■成果をどう評価するか
 特定健診・特定保健指導では、受診人数など事業実施量で計られてきた従来のアウトプット評価から、6ヵ月後、数値改善の状況等、具体的な糖尿病予備軍の減少率を問題にするアウトカム評価に変わることで、多くの現場担当者は不安を隠せない。
 今春から新たに健診項目として取り入れられる腹囲測定*についても、インパクトほどに効果があるか、ハイリスク者に絞った保健指導が成果を上げるか、現状で答はない。その中で何とか結果を出そうと、ITと人的支援を組み合わせる、健診結果に問診を組み合わせる、前年比10%の変化を『異常値』とする独自の健診プログラムをつくるなど、各者各様の取り組みを見せている。
 6ヵ月という期限つきの支援が、必ずしも数値の改善につながらなくても、専門職として数値に表れない行動変容の感触を得る場合もある。これは支援の中で切り捨てられない部分でもあり、どう評価するか判断に悩むところである。また、実施したポイントが低くても成果が上がっているというケースも今後予想され、それをどのように積極的に評価・アピールしていくかが課題となる。
 「これまで曖昧だった評価の基準が、今回の取り組みで俎上に載った。これを地域と職域の連携を進めるきっかけとし、ポピュレーションアプローチとリンクさせていけるのではないか」(県管理栄養士)など、前向きなとらえ方もある。
 重要なことは、職域における健康増進が、医療費削減だけをもたらすものではなく、働く人の生きがいやQOLに深く結びつき、労働生産性等経営資源として意味をもつという点である。
 「保健医療の専門職としては、あるべき姿を追求するしかない。特定保健指導をどうするかではなく、特定保健指導『で』何ができるか、制度をツールとして活用すべき」(津下氏)、「個々に分断された事業を展開するのではなく、総合的なヘルスプロモーションの構造の中に事業を位置づけ、それぞれの意義・目標を確認することが全体としての成功につながる」(岩永氏)という視点で、今後エビデンスを積み上げ、変更が望まれる場合、職域側から行政への申し入れを行うなど、柔軟に取り組むことになりそうだ。
 また、健康な被保険者の多い組合では保険料が安くなるとすれば、健康に投資可能な余裕のある層はより一層健康になり、そうでない層は保険料が上がれば支払いに苦慮し、医療も受けられず健康状態を悪化させることにもなりかねない。実際、健診の数値の悪い人の中には、「栄養バランスを考えずに安くて量のあるランチですませる」(企業保健師)人も少なくない。そういったケースの行動変容は、生活そのものの支援まで入り込む必要があり、一筋縄ではいかない。
 ヘルスプロモーションの理念は『すべての人に健康を(Health for All)』が示す通り、健康の公正である。医療制度改革が生きる権利を犠牲にし、健康格差を生む結果とならないことが、すべての専門職の願いであることはいうまでもない。

    *4月からの健診項目には、腹囲測定とLDLコレステロールの2つが新規追加され、総コレステロール定量、尿潜血、血清クレアチニンの3つが削除、空腹時血糖とヘモグロビンA1cはいずれかを選択することとなった。

特定健診・特定保健指導において管理栄養士の役割・求められる能力とは?

管理栄養士は特定健診・特定保健指導でどのような役割を担うのでしょうか。企業の健康保険組合のコンサルティングを通して、産業・公衆衛生分野の保健指導に携わっている株式会社ウェル・ビーイング代表取締役の鈴木誠二氏に聞きました。

wellbeing_suzuki.jpg■特定保健指導は特定栄養指導である
 特定健診・特定保健指導の実施者となる医療保険組合では、「特定保健指導は保健師が行う」と思っている人が少なくありません。しかし、実際に必要なのは、メタボリックシンドローム該当者の食事の問題点をいち早く察知し、その人に合った食べ物の選び方と食べ方を教えることです。この点から、管理栄養士による栄養指導のほうがはるかに高い効果を得ることができると考えています。
 そして、ここで必要なのは栄養学的な知識ではなく、コーチとしてのマインドやスキルであるということです。なぜなら、初回の面談で管理栄養士がクライアント(相談依頼者)から嫌われると、それ以降のコミュニケーションが成立せず、行動変容支援が不成功に終わってしまうからです。

 管理栄養士に限らず、医療専門職はクライアントに知識を与え、理解させようとします。しかし、それではクライアントに対する動機付けにはなりません。人は感情の動物であり、気持ちが動かない限り動かない動物だからです。「感動」はあっても「理動」はないということでしょうか。
 栄養指導にあたって最も重要なのは「クライアントに好かれる・承認される」ことです。あなたは、クライアントに好かれようと意識し、好かれるための努力をしていますか?一見、栄養指導とは関係がないように思うかもしれませんが、クライアントとの信頼関係が形成されないと、「あなたの伝えたいことは伝えたいように伝わらない」ことを思い知らされるでしょう。
 コーチングでは、「クライアントは自分のことは自分でできる人であり、解決策も知っている」と説きます。したがって、コーチが行うことは、そのことに気付かせ、それを引き出すことです。私がこれまで行動変容支援の現場を見てきた限り、行動変容支援に保健学や栄養学の知識はほとんど不要でした。なぜなら、クライアントは、本当はどうしたらよいかを知っているからです。そして、それを実行することは、意識さえあれば簡単にできるのです。

 行動変容支援者としての管理栄養士に求められているのは、クライアントの行動変容を支援し、新たな健康習慣を獲得してもらうことです。
 メタボリックシンドロームの原因は、おもに食べ物の選び方と食べ方にあります。管理栄養士はクライアントが食べているものを正確に把握し、問題となる食べ物を瞬時に見抜く能力が不可欠です。私はこの点から、行動変容支援には保健師や看護師よりも、食物や栄養の知識があり、調理ができる管理栄養士が向いているといっています。そして、問題となる食べ物や食べ方を、問題のないものに変えてもらうために、「伝えるスキル」が必要なのです。
 栄養指導を中心に行っていきたいと考えている管理栄養士の皆さんは、学校で学ぶ学問に加えて、コーチングやコミュニケーション、認知心理学などを学ぶと良いでしょう。

■個ではなく集団の健康を管理するという考え方
 これまで管理栄養士が行ってきた栄養指導は、おもに病院で行われている個別栄養指導や、その後のフォローが十分ではない講習会などでの集団栄養指導でした。しかし、メタボリックシンドロームが問題となっている産業衛生では、クライアントをフォローするとともに、効率的に集団管理をすることが要求されます。個々の検査データをダイナミックに捉え、どのタイミングで誰に介入するのが効果的なのか、その結果は医療費の削減に反映されるのかなど、個と集団を時系列でみることが求められます。
 これからの管理栄養士は、このような意識や考えを持って個と集団の管理をするように心がけると良いでしょう。

■健康は自分で選ぶことができる
 「人は健康も病気も選択する」と、私は講演会で必ず話します。多くの人はまだこのことに気付いていないからです。そして、「健康がすべてではない。しかし、健康を失うとすべてを失います。今なら間に合いますが、どうしますか?」と参加者に尋ねます。
 健康的に生活するために、管理栄養士からのアドバイスは有効です。そのためにも、これからの管理栄養士は、相手に関心を持ってもらうための人間力や会話力を持っていることが不可欠です。学生のうちから、人間の行動や経済、マネジメントなど幅広い分野に関心を持ち、「健康的に生きるとはどういうことか」を考えてみると良いでしょう。その探求のなかで、人間力や会話力が磨かれていくのではないでしょうか。