産業衛生の現場では専門職も働く仲間

「作業衣に着替えて現場へ出よう」
住吉右光「さんぽ会」会長が語る

 産業保健にかかわる専門職や学生が集う「さんぽ会」は、現場目線重視の活動で知られる。2009年3月例会では、住吉右光会長自らが、45年にわたる産業医経験から、現場での種々のエピソードと、専門職の企業での在り方についての具体的助言を語った。

職場巡視では発見がある
 私が製薬会社で産業医としてのスタートを切った1964年は、健康管理という概念も明確ではなく、産業医という言葉もありませんでした。1972年、労働基準法から労働安全衛生法が独立して以降、職域での労働者の安全や健康を守るための取り組みが本格化してきました。その後私も、百貨店、銀行、自動車会社などで仕事をしてきました。
 産業保健にかかわる専門職というのは、事業所内で人に好かれなければ、なかなか仕事がやりづらい面があります。このこと自体は、時代が進み法律が変わっても変わりません。社員から相談にこられるようになれば、専門職として一人前です。
 時には白衣が有効なこともありますが、白衣を着て、なんとなくえらそうに見えてしまわないように気をつけなければなりません。できるだけ白衣から作業衣に着替えて現場に出るという姿勢が大切です。職場巡視では思いがけない発見があるからです。逆にいえば、現場を回らなければ見過ごされてしまうことも多いのです。
 製薬会社時代に、胃の悪い男性がいました。内視鏡検査などでも原因がわかりません。その人の働いている現場近くまで出かけて行って様子を見ていると、ビタミンB1の源末をちょこちょこ舐めています。普通、1日1~2mgの量しか必要のないところを、この人は無意識の癖で1000mgも舐めていたのです。これが原因でB2とB6をブロックして慢性胃炎になっていたことがわかりました。
 一見何でもない人たちのちょっとしたデータをきちっとみることも大切です。よくみると、とんでもないものがみつかったりします。横隔膜の少しの変形に気づいて検査をして、肝がんがみつかったこともありました。
 健診で得られたデータをきちんとみることは、大きな見過ごしを防いでくれます。

人を巻き込み動かし、自分も動き回る
 産業衛生にかかわる専門職は、社員の健康を守るのが仕事です。そのためにも、企業をよく知り、企業と上手に関係づくりをしていく必要があります。持ち株会に入る、社内報の枠をもらう、現場に行く、調査に参加する、安全衛生委員会に参加するなど、方法はいくつもあります。とにかく人に会うことです。
 人を動かすような資料を上手くつくるのもひとつの手です。同業他社との健康データを比較したような資料を提出すると、企業側も気になりますから必ず反応があります。情報をどんどん出して、会社に知らしめることは有効です。
 このほか、人事の人も巻き込んで勉強会の仲間に入れてしまう。いろんな提案は返事がもらえるように必ず文書で行う。また、出張したら、きちんと報告を出しておくと、次にも行かせてもらえます。
 会社で働くいろんな人と仲良くなることもたくさんの効用があります。役員付きの運転手は、しばしばキーパーソンですし、掃除のおばさんなんかからもいろんな情報が入ってきます。そのような人たちの評判は大切です。私など、百貨店の産業医時代にあちこち動き回っていたら、顔を覚えられてスーツを安くしてもらったりしました。

健康だからいい仕事ができる
 日本の労働衛生の歴史は、昭和30年代に有害業務が問題になった頃、直接的に人の健康を害する物質について、自分たちで管理できるしくみをつくろうということから始まっています。
 健診は、法に基づいて行うとは書いてあるが、その先の判定についてはとくに規定はありません。医師によってはその産業が引き起こしている健康障害のみに注目して、ドックの結果に無関心な人もいるかもしれません。
 日本の職域での健康診断のあり方に、もう少し統一的な柱があれば、より精度の高い健康管理が国全体として可能になるのではないかとも思います。
 ともすれば企業は、労働者がいいアイデアを出してよく働き、収益を上げ、そして健康であればいいという考え方をしがちです。ですが、われわれ産業保健にかかわる専門職は、まず労働者の健康が第一。健康だからこそいい仕事ができ、会社に貢献できる。そういう立場で働く人たちの環境を整えていくのが基本姿勢です。
 一朝一夕にはいかないことも多いですが、大切なのは企業は人がつくっているということを理解してくれる人をみつけて、協力者にしつつ、小さな努力を積み重ねていくことだと思います。