特定健診・特定保健指導「で」何ができるか

~「メタボ元年」は保健医療専門職の意識・行動変容から~ 
             日本健康教育学会の交流型セミナーより


◆現場からの話題提供
地域から:池田康幸氏(埼玉県三芳町保健センター管理栄養士)
職域から:五十嵐千代氏(富士電機リテイルシステムズ(株)健康管理室主査)
医療保険者から:中村貞次氏(トヨタ関連部品健康保険組合常務理事)
◆ゲストコメンテーター
津下一代氏(あいちの森健康科学総合センター長件健康開発部長)
藤内修二氏(大分県佐伯県民保健福祉センター長)
岡田邦夫氏(大阪ガス(株)人事部健康開発センター統括産業医)
◆コーディネーター・進行
岩永俊博氏(地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター常勤顧問)
武見ゆかり氏(女子栄養大学教授)

■予防はハイリスク者から
 4月から国を挙げてのメタボ対策がスタートする。今後5年で「40~74歳の健診受診率70%、保健指導実施率45%、メタボ予備軍10%減」を目指す。ただのキャンペーンで終わらせないために、健診受診者に個別対応を徹底する方策をとる。まず健診でハイリスク者を特定・抽出し、リスクに応じた保健指導によって行動変容をもたらし、メタボ脱却へ導くという成果が、実施責任者たる医療保険者に求められる。多くの健保組合がすでに独自の対策プログラムを開発しており、保健指導担当者は、いかにして成果を上げるかに頭を悩ませている。まずは、やってみて、その途上で必要に応じて軌道修正するというのが現実的な姿勢である。
 大筋は、国民病である糖尿病を含む医療費抑制(2024年度の医療費2兆円減)のため、生活習慣病リスク者をメタボリックシンドロームという名のもとに括り、予防を徹底することが今回の取り組み。中でも60代の透析患者の治療費年間一兆円が、退職後、健保から国保に切り替わって生じる医療費であることに着目し、より早い段階で対処するため、勤労世代の予防にターゲットを絞った。
 1月12日、日本健康教育学会が女子栄養大学で開催した参加交流型セミナーでは、保健指導に当たる専門職たちが本音をまじえて率直に討議した。当日の多様な意見の中から、現状での問題点を整理した。

■メタボにどれだけのウェイトを置くか
 地域での国保による健診を別にすれば、今回の特定健診・特定保健指導は、勤労世代の男性が主たる対象となる。つまり、職域を中心とした取り組みとなることから、健康保険組合が実施者となり、事業主の責任となる。
 これまで健保組合の業務は、被保険者負担分を除いた医療費の支払いがメインであり、今回被保険者の健康レベルの把握と改善が課されたことは、「大異変であり、コスト増」(トヨタ関連部品健保・中村氏)というのが共通の認識であろう。同健保組合は、愛知県を中心に150社、12万人が加入する総合健保で、医療費の四分の一を生活習慣病が占める。     
 医療費削減につながる予防重視施策に異論をもつ人はない。ただ、生活習慣病予防は、これまでにも職域で取り組まれ、一定の成果を上げてきた。また、産業保健のテーマには、メンタルヘルスや過重労働等、総合的に労働状況を調整する必要のあるものも多い。この中で、情報提供、動機づけ支援、積極的支援の3段階に分けて支援計画から実施・評価まで厳格に個別対応するメタボ予防にどれだけのウェイトを置くべきかが、現場担当者を悩ませている。
 現実問題として、3ヵ月以上継続的に行う積極的支援については、多大な労力を要することからアウトソーシングが有力であり、新たな官製ヘルスケアビジネスに受託企業が殺到している。アウトソーシングにあたっては、提供される保健指導の質やマンパワーのみきわめと、企業側での労働調整も必要となる。
 健診結果の階層化、個別対応のためのIT投資など、医療保険者の規模や資金力によっては、取り組みの内容に差異が生じることが予想される。健保を擁する大規模事業所でも、地方の散在事業所での保健指導がどの程度確保できるか、政府管掌健保の被保険者、被扶養者などの保健指導が具体的にどうなるか、多くは未知数である。
 メタボキャンペーンがカバーしていない喫煙や非肥満者の健康問題、健診結果に異常が見出されなくても生活習慣に問題がある20代30代の予防など、今後検討を要する問題も残されている。

■「ポイント制」の是非
 保健指導は、動機付け・積極的支援とも1人あたり20分以上の個別支援か、1グループ8名以下80分以上のグループ支援の形態で、健診結果の理解や生活習慣の振り返り、生活習慣改善の必要の説明に始まり、健康に関する知識や食事・運動等具体的な生活改善の方法に関する指導、行動変容動機の形成、プランづくりなどの内容で行い、6ヵ月後に評価する。
 当初、厚労省では到達すべき数値目標の設定にとどめていたが、「したことにしてすませる」といった現場の姿勢に歯止めをかけ、支援の実施状況をより明確にするため、積極的支援にポイント制を導入した。これは、支援の内容と形態でポイントを算定(実践的な指導-個別支援5分間20ポイント、実施状況の確認-1回5分間以上の電話支援10ポイントなど)し、規定に従い合計180ポイント以上の支援実施を最低条件とするもの。
 現場担当者の具体的目標とはなるが、細部にわたる規定が自由度を奪うおそれや、ポイントをこなすことに追われて本来の目的を見失うことなどがやや懸念される。ただし、解釈次第では自由な取り組みの妨げとはならないとの指摘も一方にある。
 今後五年間で目標に対して成果を上げた医療保険者には、後期高齢者医療支援金として、保険者が地域の広域連合に拠出する負担金に対し、公費から10%が付与され、実質減算される。これが保険者のモチベーションとなって、被保険者の目標達成を支援するという構図となり、成功すれば保険料の低減にもつながる。逆に、目標達成に至らない保険者には10%加算のペナルティが課され、被保険者の保険料上昇を招く結果となる。

■対象者より支援者が行動変容を
 健診後は、リスクの階層化にもとづいて主として保健師と管理栄養士が、保健指導にあたるが、生活習慣の改善には、本人のやる気に加え、企業風土を含めドロップアウトなく行動変容維持を支える環境整備が不可欠となる。その意味でも、今回の討議においては、ハイリスク者をターゲットとした取り組みにもかかわらず、「いかにしてポピュレーションアプローチとリンクさせるかがポイント」という見方が強かった。
 保健指導を受けた対象者は、アドバイスを受け入れたかに見えても行動が伴うとは限らない。後期高齢者医療支援金がインセンティブとなる保険者ほどに、個人に対して強いインセンティブを形成することはむずかしい。対象者の健康観は、自身の経験の中で培ってきた思考の枠組み(スキーム)の中にあるためで、このスキームに働きかけ、主観的健康感と客観的健康度の乖離を埋めない限り、行動変容を起こすには至らない。
 保健行動学の知識を踏まえた上で、対象者のQOLに照準を当て、「幸せであるために健康に関する知識をもち、自分の健康状態を知る必要があること、さらにそのための手段として健診や保健指導があることを理解してもらう」(岩永氏)という専門職ならではのアプローチが必要となる。
 とはいえ、五年後の成功を確信する声はない。個別支援への負担感も強い。わずか20分の動機づけ面接を一回行ったとして、果たして6ヵ月で人が人の健康観と行動を変え、成果を上げられるのか。
 さらなる指導技術の向上とともに、気の進まないハイリスク者が喜んで保健指導を受けるような魅力的な支援プログラムを提供できなければならない。「対象者の行動を変容させようとすれば、むしろ支援に当たる専門職のほうが従来の活動の不十分な点を見直し、真摯に行動変容していくべき」(岡田氏)というシビアな指摘の通り、専門職の手腕とプロ意識が問われている。

■成果をどう評価するか
 特定健診・特定保健指導では、受診人数など事業実施量で計られてきた従来のアウトプット評価から、6ヵ月後、数値改善の状況等、具体的な糖尿病予備軍の減少率を問題にするアウトカム評価に変わることで、多くの現場担当者は不安を隠せない。
 今春から新たに健診項目として取り入れられる腹囲測定*についても、インパクトほどに効果があるか、ハイリスク者に絞った保健指導が成果を上げるか、現状で答はない。その中で何とか結果を出そうと、ITと人的支援を組み合わせる、健診結果に問診を組み合わせる、前年比10%の変化を『異常値』とする独自の健診プログラムをつくるなど、各者各様の取り組みを見せている。
 6ヵ月という期限つきの支援が、必ずしも数値の改善につながらなくても、専門職として数値に表れない行動変容の感触を得る場合もある。これは支援の中で切り捨てられない部分でもあり、どう評価するか判断に悩むところである。また、実施したポイントが低くても成果が上がっているというケースも今後予想され、それをどのように積極的に評価・アピールしていくかが課題となる。
 「これまで曖昧だった評価の基準が、今回の取り組みで俎上に載った。これを地域と職域の連携を進めるきっかけとし、ポピュレーションアプローチとリンクさせていけるのではないか」(県管理栄養士)など、前向きなとらえ方もある。
 重要なことは、職域における健康増進が、医療費削減だけをもたらすものではなく、働く人の生きがいやQOLに深く結びつき、労働生産性等経営資源として意味をもつという点である。
 「保健医療の専門職としては、あるべき姿を追求するしかない。特定保健指導をどうするかではなく、特定保健指導『で』何ができるか、制度をツールとして活用すべき」(津下氏)、「個々に分断された事業を展開するのではなく、総合的なヘルスプロモーションの構造の中に事業を位置づけ、それぞれの意義・目標を確認することが全体としての成功につながる」(岩永氏)という視点で、今後エビデンスを積み上げ、変更が望まれる場合、職域側から行政への申し入れを行うなど、柔軟に取り組むことになりそうだ。
 また、健康な被保険者の多い組合では保険料が安くなるとすれば、健康に投資可能な余裕のある層はより一層健康になり、そうでない層は保険料が上がれば支払いに苦慮し、医療も受けられず健康状態を悪化させることにもなりかねない。実際、健診の数値の悪い人の中には、「栄養バランスを考えずに安くて量のあるランチですませる」(企業保健師)人も少なくない。そういったケースの行動変容は、生活そのものの支援まで入り込む必要があり、一筋縄ではいかない。
 ヘルスプロモーションの理念は『すべての人に健康を(Health for All)』が示す通り、健康の公正である。医療制度改革が生きる権利を犠牲にし、健康格差を生む結果とならないことが、すべての専門職の願いであることはいうまでもない。

    *4月からの健診項目には、腹囲測定とLDLコレステロールの2つが新規追加され、総コレステロール定量、尿潜血、血清クレアチニンの3つが削除、空腹時血糖とヘモグロビンA1cはいずれかを選択することとなった。