特定健診・特定保健指導において管理栄養士の役割・求められる能力とは?

管理栄養士は特定健診・特定保健指導でどのような役割を担うのでしょうか。企業の健康保険組合のコンサルティングを通して、産業・公衆衛生分野の保健指導に携わっている株式会社ウェル・ビーイング代表取締役の鈴木誠二氏に聞きました。

wellbeing_suzuki.jpg■特定保健指導は特定栄養指導である
 特定健診・特定保健指導の実施者となる医療保険組合では、「特定保健指導は保健師が行う」と思っている人が少なくありません。しかし、実際に必要なのは、メタボリックシンドローム該当者の食事の問題点をいち早く察知し、その人に合った食べ物の選び方と食べ方を教えることです。この点から、管理栄養士による栄養指導のほうがはるかに高い効果を得ることができると考えています。
 そして、ここで必要なのは栄養学的な知識ではなく、コーチとしてのマインドやスキルであるということです。なぜなら、初回の面談で管理栄養士がクライアント(相談依頼者)から嫌われると、それ以降のコミュニケーションが成立せず、行動変容支援が不成功に終わってしまうからです。

 管理栄養士に限らず、医療専門職はクライアントに知識を与え、理解させようとします。しかし、それではクライアントに対する動機付けにはなりません。人は感情の動物であり、気持ちが動かない限り動かない動物だからです。「感動」はあっても「理動」はないということでしょうか。
 栄養指導にあたって最も重要なのは「クライアントに好かれる・承認される」ことです。あなたは、クライアントに好かれようと意識し、好かれるための努力をしていますか?一見、栄養指導とは関係がないように思うかもしれませんが、クライアントとの信頼関係が形成されないと、「あなたの伝えたいことは伝えたいように伝わらない」ことを思い知らされるでしょう。
 コーチングでは、「クライアントは自分のことは自分でできる人であり、解決策も知っている」と説きます。したがって、コーチが行うことは、そのことに気付かせ、それを引き出すことです。私がこれまで行動変容支援の現場を見てきた限り、行動変容支援に保健学や栄養学の知識はほとんど不要でした。なぜなら、クライアントは、本当はどうしたらよいかを知っているからです。そして、それを実行することは、意識さえあれば簡単にできるのです。

 行動変容支援者としての管理栄養士に求められているのは、クライアントの行動変容を支援し、新たな健康習慣を獲得してもらうことです。
 メタボリックシンドロームの原因は、おもに食べ物の選び方と食べ方にあります。管理栄養士はクライアントが食べているものを正確に把握し、問題となる食べ物を瞬時に見抜く能力が不可欠です。私はこの点から、行動変容支援には保健師や看護師よりも、食物や栄養の知識があり、調理ができる管理栄養士が向いているといっています。そして、問題となる食べ物や食べ方を、問題のないものに変えてもらうために、「伝えるスキル」が必要なのです。
 栄養指導を中心に行っていきたいと考えている管理栄養士の皆さんは、学校で学ぶ学問に加えて、コーチングやコミュニケーション、認知心理学などを学ぶと良いでしょう。

■個ではなく集団の健康を管理するという考え方
 これまで管理栄養士が行ってきた栄養指導は、おもに病院で行われている個別栄養指導や、その後のフォローが十分ではない講習会などでの集団栄養指導でした。しかし、メタボリックシンドロームが問題となっている産業衛生では、クライアントをフォローするとともに、効率的に集団管理をすることが要求されます。個々の検査データをダイナミックに捉え、どのタイミングで誰に介入するのが効果的なのか、その結果は医療費の削減に反映されるのかなど、個と集団を時系列でみることが求められます。
 これからの管理栄養士は、このような意識や考えを持って個と集団の管理をするように心がけると良いでしょう。

■健康は自分で選ぶことができる
 「人は健康も病気も選択する」と、私は講演会で必ず話します。多くの人はまだこのことに気付いていないからです。そして、「健康がすべてではない。しかし、健康を失うとすべてを失います。今なら間に合いますが、どうしますか?」と参加者に尋ねます。
 健康的に生活するために、管理栄養士からのアドバイスは有効です。そのためにも、これからの管理栄養士は、相手に関心を持ってもらうための人間力や会話力を持っていることが不可欠です。学生のうちから、人間の行動や経済、マネジメントなど幅広い分野に関心を持ち、「健康的に生きるとはどういうことか」を考えてみると良いでしょう。その探求のなかで、人間力や会話力が磨かれていくのではないでしょうか。