摂食障害の身体的問題とその治療

第47回日本心身医学界総会教育セミナーVIII
「摂食障害の身体的問題とその治療」

第47回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(2006年5月31日、日本教育会館)ランチョンセミナー「摂食障害の身体的問題とその治療」のご講演をレポートしました。

鈴木(堀田)眞理 (政策研究大学院大学 保健管理センター教授)

 摂食障害のうち拒食症は低栄養による合併症が大きな特徴です。低血圧、徐脈、低体温をなどの身体症状は、摂取エネルギー不足に対して省エネ体制になったからだが起こすものです。興味深いことに喘息やアトピーなどは一時的に改善しますが、拒食症に合併した高コルチゾール血症の効果と考えられます。
 本症では低栄養による高コレステロール血症ややせや自己嘔吐に伴う高アミラーゼ血症を認めます。治療は体重や摂取エネルギーの増加が本来の治療ですが、食事制限という誤った治療をされたりもします。一般検査で異常がない場合でも、栄養マーカーであるインスリン様成長因子I(IGF-I)やトリイオドサイロニン(T3)、月経に関係ある女性ホルモン値には異常が出やすいので、この結果を説明して、患者さんの病識や治療動機を促します。
 重篤な合併症には低血糖昏睡があります。標準体重の50%以下や20kg台の体重になると、肝臓グリコーゲンはほとんど枯渇しているので、わずかな食事時間のずれやいつもより摂取エネルギー量がちょっと少ないだけで、低血糖を起こします。朝、「よく寝てるわね」と思っていたら低血糖昏睡ということもあります。低血糖治療のためにブドウ糖を急激に大量に入れると、インスリン分泌は低下しているのでかえって高血糖になります。
 下剤乱用の合併も多く、1日に300~400錠も服用することがあります。下剤乱用では脱水だけでなく、低カリウム血症、低ナトリウム血症などの電解質異常をきたします。自己嘔吐する例では、胃液の水素イオンを失うため体液がアルカローシスになり、さらに低カリウム血症が増悪します。
 低カリウム血症は主要な死因の一つである不整脈や筋力低下、麻痺性イレウスの原因になります。カリウム補給のためにカリウム製剤やカリウムの多く含まれる食品(ドライフルーツやホウレン草など)をとるように指導します。
 拒食症の患者さんは、外食させると残さず食べるというので、無理矢理外食に連れ出した母親がいました。昼食に1人間前のスパゲッティを1時間かけて水で流し込んで食べたあと意識消失し、救急車で運ばれました。上腸間膜動脈症候群でした。胃排出能は遅延しています。そのような状態で無理矢理食べさせることには危険が伴います。
 成長期にこの病気にかかると、低身長、骨粗鬆症、初潮未発来(無月経)などの深刻な後遺症が残ることがあります。身長の第2スパートにあたる9歳から14歳に拒食症になると、身長の伸びが鈍化し、予想された最終身長まで伸びないことがあります。身長の伸びに関連の深いIGF-Iの分泌が低下するBMI>16kg/m2の期間を短くすることが低身長の予防です。
 日本人女性の骨密度の頂値は14~15歳で獲得されます。骨粗鬆症の最大の予防方法は頂値を上げることです。骨密度の低下も拒食症の主要な合併症です。体重や月経が回復しても骨密度は正常域まで回復しないことがあり、骨粗鬆症の予備軍になります。
やせに伴う合併症でもっともやっかいなのは飢餓によって惹起される異常行動や精神症状です。食べ物への執着や過活動、記銘力、思考力、判断力、洞察力の低下、不安定な気分や抑うつなど情動の異常などで、高度な知的作業である心理療法の大きな障害になります。一般的に35~40Kgまで回復しなければ有効な心理療法ができません。そのためにも内科的治療を優先します。
 しかし、体重が増えると現実がはっきり見えて不安なので、「困るとやせる」が彼女たちの病理です。このため、心理教育的アプローチで科学的で詳細な医学情報を提供しつつ教育して、やせのメリットを上回るような治療動機を持たせることが、治療の第一歩です。本人の体重増加への非論理的な恐怖にも配慮して、急激に太らせない、受容できる体重にとどまる栄養摂取量を教える、楽に食べられる食事、カロリーのわかった食品の利用など、医療者が柔軟に対応することが大切です。最終的には、彼女たちの苦手なコーピングスキルを向上させる治療を行い、社会性を回復していきます。