精神医学・医療の専門性の確立を目指して

第101回 日本精神神経学会総会(2005年5月18日、大宮ソニックシティ)
「精神医学・医療の専門性の確立を目指して」でのご講演をレポートしました。

摂食障害は、長期化と難治傾向の2つを併せもち、一人の治療者が患者を診続けることが少ない病気である。精神科、心療内科、内科、婦人科、小児科などが診療にあたるが、患者の治療中断率は30%に達し、治療者自身の個別性が「科」の枠を超えにくい。治療者が変わり「科」が変わっても、摂食障害の治療継続は可能か。  この問題を考えるはじめての試みとして、6人のパネラーを招き、「摂食障害の治療──診療科を超えたクロストーク」が行われた。  司会は、石川俊男(国立精神・神経センター国府台病院心療内科)と切池信夫(大阪市立大学大学院医学研究科神経精神科)の2氏。

■鈴木(堀田)眞理
(内科──政策研究大学院大学保健管理センター)


 拒食症の患者のからだを診る内科医の役割は、プライマリケアにあります。初回来院時には、まずクローン病などほかのやせをきたす病気との鑑別診断が重要です。次に栄養アセスメントを行い、本人の了解なしに身体的理由で緊急入院させることもあります。低血糖性昏睡などの合併症、長期間の低体重から起こる低伸長や骨粗鬆症といった後遺症なども、精査・予防の必要があります。
 14~15歳がピークとなる骨密度を、この時期にどれだけ上げておくかが骨粗鬆症の最大の予防ですが、本症の患者は25%が14歳以下で発病するため、後年のQOLにも大きな影響があり、低体重期間の長期化はきわめて危険です。
 拒食症の患者は、やせていることに安心を見出す心理状態にあり、無理に太らされることを何より恐れています。体重があってもストレスに対処できなかったことが、やせによってさらに心身機能と問題解決能力の低下をきたします。
 治療は、栄養療法と精神療法が二本柱ですが、体重が35kgないとカウンセリングには不適なので、栄養状態を高め、通常の思考能力がもてる体重を回復してから、精神科による治療を行います。
 患者は、医者を敵視しているため、治療に入る前に必ず、(1)患者の信頼の獲得、(2)治りたいという意欲の創出、(3)当面のストレスの解消、(4)安心できる療養の場の整備の4つに働きかけます。患者の心理を受容し、丁寧にデータを示して説明し、受容体重を確認し、摂取カロリーを示しながら、治療計画を立てます。この4つが確立できてはじめて、身体的治療と精神療法という本来の治療が可能になるので、ここに最大の労力を投じる必要があります。この段階が不十分だと、患者はドクターショッピングを繰り返し続けます。
 入院は、生命の危険のある緊急入院を別にすれば、すべて計画入院で、教育入院もあります。長期休暇を利用したり、時には病院から通学もします。
 やせの程度が重症であるほど内科の役割は大きいのですが、問題行動の患者や、体重回復後の認知のゆがみ是正に、精神科との連携は不可欠です。家族の協力も重要で、専門の栄養指導や勉強会なども行っています。
 また、月経発来には、健康体重の85%が必要ですが、70%を切っていても、本人の希望によってホルモン補充療法を行うこともあります。

■瀧井正人
(心療内科──九州大学大学院医学研究院心身医学)

 主に拒食症の患者を、行動制限を用いた認知行動療法で治療しています。患者は本来の心の問題から回避しようとして、さまざまな行動を起こすので、それをブロックすることにより、中心的な問題に目を向けざるをえなくすることが目的です。体重回復とともに徐々に行動制限が解除されていくプログラムを適用しています。拒食症が病棟の半分を占め、在院日数の長さとBMIの向上度が比例しています。この方法には、重度の境界性人格障害には向かないこと、表面的な治療になりがちなこと、入院期間が長いなどの限界もあります。

■山岡昌之
(心療内科──国家公務員共済組合連合会九段坂病院心療内科)


 拒食症の患者は、母子間の基本的信頼関係が不十分なことが多く、退行現象もみられるため、自我を育てる必要があると考えます。そのために、(1)手をつなぐ、一緒に入浴するなどして身体的接触を行い、統合が行われていない身体の自己化を促す、(2)説得や否定ではなく母親の受容による安心感獲得など、情緒応答性の回復を目指します。患者の退行レベルに応じて、親が成長のサポートをする「再養育療法」を行っています。また、夫が妻を支えることも大きなポイントです。
 治療は、臨床心理士の協力を得ながら、外来と家庭で行います。この方法では、患者の意欲以前に家族機能が高まることで効果が上がり、母親が変わっていくことで、「お母さんがわかってくれる」と患者が感じるようになると、症状も改善されていきます。

■西園マーハ文
(精神科──東京都精神医学総合研究所児童思春期研究部門)

 プライマリケア医によるオリエンテーションを経て精神科を受診する欧米と異なり、日本では、家庭からの直接受診や、学校や小児科・内科・婦人科などの紹介で精神科を受診します。精神科の敷居はまだ高いのが現状であり、精神科への過大な期待なども治療を難しくしている一因です。
 産後うつ病の中で生じる摂食障害を多く診療していますが、相手によって言動が変わるスプリッティングや、現実と理想とのギャップもあるので、患者自身の生活上の工夫が必要になります。また、標準体重を過度に重視したり強制しないことも心がけています。
 主治医が変わっても治療の連続性が保てるよう、治療者どうしの情報交換や連携を行い、患者を中心として治療を組み立てていくことが大切です。

■鈴木健二
(精神科──国立病院機構久里浜アルコール症センター)

 摂食障害のうち、過食・排出型を主に扱い、集団療法を取り入れて治療しています。摂食障害は、アルコール依存と同様、アディクションの特徴がある慢性疾患で、うつ、不安障害その他の依存症も合併してきます。
 回復は、体重→社会性→食行動→心理面の順で、時間を要し、再発も多い疾患です。治療戦略としては、外来と入院を組み合せて治療意欲を保つようにし、家族会やリハビリテーションプログラムを多彩に用意し、心理教育、認知行動療法、作業療法などをすべて集団で行って、効果を上げています。

■傳田健三
(精神科──北海道大学大学院医学研究科精神医学分野)

 小児の摂食障害を診ていますが、ほとんどが拒食症です。摂食障害は位置づけとして慢性疾患であり、基本的には、統合失調症やうつなど、大人の精神疾患と同じように精神科でアプローチできる病気です。
 子どもの拒食症の特徴は、ダイエットではなく不食による体重低下が多いことで、不登校があり、肥満恐怖ややせ願望を口にしないので、身体疾患に近いと考えたほうが治療しやすいと思います。大人とちがって、治療の動機づけが不十分なほか、体脂肪が少ないために急激に重篤になる危険性があります。
 同年代の中での治療が効果的で、食事日記を書かせるなどして、チーム医療で取り組んでいます。低体重の患者は入院、過食は外来で治療しています。

[クロストーク]

 患者との距離について、「心療内科が患者に寄り添う傾向があるのに対し、精神科はクールなのでは」(石川)との発言に対し、「治る患者を見ていると親との接触がある。精神科ではタブーとされる方法だが、治っていくので取り入れている。問題行動が大きい場合は、精神科にまわす」(山岡)、「こちらが一生懸命になると患者にもきつい。病気とつきあっていくという姿勢も大切」(瀧井)、「精神科医もエネルギーを注いでいる。ただ、患者の意志を確認し、主体性を尊重しているために突き放していると見えるのか。闘病期間が社会的空白にならないように工夫が望まれる」(西園)、「精神科で行う濃密な家族療法に限界を感じ、家族を共同治療者として協力関係を築いている」(傳田)、などの意見が上がった。
 「患者が一般科から精神科にまわってきた場合、またその逆の場合、どう受け入れるか」(石川)との問いには、「併存症をもっている患者は精神科医の得意とするところ。一般科との役割の違いはある」(鈴木健二)、「患者自身に聞いて、解決されていない問題を確認して治療にあたる」(西園)、「精神科でひどいことをされたと言う患者は思いこみが強い。その認知のゆがみを緩和するのが内科医」(鈴木眞理)、「いろんな施設をまわってきた患者には、今までの治療はすべてプラスになる、と言う。治療者の熱意や誠意に患者は敏感」(山岡)などと答えた。
 精神科医については、「薬に頼って精神療法などについて勉強不足」(切池)との苦言や、「心療内科のドクターのほうが精神科医より一生懸命やっていると感じることもある」(鈴木健二)など、さらなる専門性強化の提言と、慢性病と位置づけられるこの病気に対し、各科の連携と多様な方策の必要性が強調された。