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保健師にも求められるリスク評価の視点

10月27~29日の3日間、東京で第69回日本公衆衛生学会総会が開催され、「公衆衛生の発展に向けて――調査研究から政策へ――」をテーマに、さまざまな講演や発表が行われました。

私(=ほけこ)の印象に残ったのは、特別講演「統一的なリスク評価は可能か―環境・食品・衛生」です。リスク評価が適正に行われなかったために起こってしまった事例としてDDTの禁止によるマラリアの蔓延があります。殺虫剤であるDDTは、第二次世界大戦前後からシラミやノミなどの衛生害虫の駆除や農産物の害虫駆除のために広く使用されていました。マラリアを媒介する蚊の駆除にも効果を上げ、DDT散布により、マラリアの患者数は全世界で激減していたのです。しかし、レイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」によって生態系への影響が指摘され、また発がん性も疑われて70~80年代に世界各国で使用が禁止されました。

DDTの禁止後、DDTに替わる安価で効力のある殺虫剤は開発されず、発展途上国でのマラリアの患者数は増加してしまいました。WHOの推計によると、世界で年間約3億人が罹患し、100万人近くの死亡者が出ています。これに対処するためWHOは2006年に方針を転換し、マラリア予防のためDDTの使用を推奨すると発表しました。

なぜ、マラリアの患者が増加しているにも関わらず、30年間もDDTの使用の見直しが行われなかったのでしょうか。中西準子氏(独立行政法人産業技術総合研究所)は「適正なリスク評価がなされてこなかったから」と説明しています。つまり、化学物質による環境影響という標的のリスクを削減しても、その結果、感染症という別なリスクが増えることが考慮されるまでに長い時間を必要としたのです。化学物質そのもののリスクと感染症のリスクという全く別のリスクを同時にまな板にのせなければ、適正なリスク評価とはいえません。

「保健、医療、福祉、食品安全、どれも命を守るという目的は同じです。本来なら、政策を決定する際にもあらゆるリスクを比較して一番効果的な予算配分を考えなくてはならないのです」と中西氏は提案しています。保健師も、同じく命を守るという目的を持ち、限られた予算のなかでリスクや効果を考えながら保健事業を計画・実施しています。担当の地域や分野のみならず、より多くの人の健康を考え、広い視野を持つことが求められる影響力のある仕事なのだと改めて感じました。

〜2011年ほけもし第2回より〜

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